研究課題
慢性炎症と発癌は密接に関連しており、その過程には2つのステップが考えられる。一つは遺伝子のエピジェネティックな制御が異常になること、もう一つは炎症が向腫瘍作用に傾き“がんの微小環境”を形成することである。申請者らはラットを用いて十二指腸液を食道に逆流させる手術を行い約40週間観察すると発癌剤を使用せずに食道癌が発生し、その発癌機序がヒトと同じように組織学的にInflammation-Metaplasia-Adenocarcinoma sequenceによることを世界に先駆けて報告してきた。近年、Ⅱ型糖尿病治療薬であるメトホルミンがpStat3の抑制やTGF-βの抑制効果さらには細胞障害性T細胞の疲弊を解除する効果などを有していることが報告され、免疫抑制性のがん微小環境を改善させることが期待されている。本研究では、この自然発癌モデルを用いて発癌過程における“エピジェネティックな変化”と“がんの微小環境”を解析することを第一の目的に、次にメトホルミンを用いたDrug repositioningによる“がん微小環境の改変”に重点を置いた新規治療の可能性を検討することを第二の目的として実験を計画した。最終年である当該年度は、メトホルミンによる発癌の影響を検討し、メトホルミン投与群では非投与群に比べ発癌率が有意に低下していた。がん微小環境の影響を検索するため切除標本より細胞を抽出し、フローサイトメトリーを用いて浸潤細胞を解析した結果、メトホルミン投与群では非投与群に比べ免疫抑制細胞である制御性T細胞、M2型マクロファージの減少を認め、さらにこれらの細胞のTGF-βやIL-10といった免疫抑制性サイトカイン産生能の低下が確認された。
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Surgery
巻: 164 ページ: 49-55
10.1016/j.surg.2018.02.003.