研究課題/領域番号 |
16K10503
|
研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
新田 英利 熊本大学, 医学部附属病院, 助教 (90555749)
|
研究分担者 |
石本 崇胤 熊本大学, 医学部附属病院, 特任准教授 (00594889)
岩槻 政晃 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 助教 (50452777)
小澄 敬祐 熊本大学, 医学部附属病院, 非常勤診療医師 (50594884)
藏重 淳二 熊本大学, 医学部附属病院, 非常勤診療医師 (90594474)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 補体C5a / C5a受容体 / 肝stellate cell / 大腸癌肝転移 |
研究実績の概要 |
近年、補体C5aおよびその受容体であるC5areceptor(C5aR)はヒトの固形癌に発現し、癌細胞の浸潤能を亢進させることが明らかになってきた。さらに、癌の微小環境においてC5aRを介して自身の増殖、浸潤に有利な環境を作り出している可能性がある。例えば癌の微小環境において産生されたC5aは骨髄からMyeloid derived suppressor cellを動員し、CD8+T cell の抗腫瘍効果を抑制することで腫瘍増殖を促進させる。また肝stellate cell (HSC)はC5aR発現を有し、C5aにより活性化され、αSMA発現やヒアルロン酸の産生を促進することで肝の線維化を誘導する。活性化したHSCは肝内胆管癌や大腸癌肝転移の浸潤を促進するとの報告もある。以上より、C5aRは癌細胞自身に発現し、自身の浸潤・転移能を獲得している以外にも、このような癌と間質はC5a‐C5aR axisを介して浸潤・転移を促進させている可能性が考えられるがその効果・メカニズムは不明である。癌細胞自身にC5aRの発現がなくても間質のC5aRを治療標的とし、その相互作用を抑制することで癌の浸潤・転移を抑制できる可能性がある。 大腸癌肝転移は近年増加の一途をたどっており、新規抗癌剤・分子標的薬の導入で生存期間は延びてきているが治癒にいたることは稀であり、新たな治療法の確立が望まれる。 よって本研究の目的は、肝HSCに着目してこれら間質細胞と肝癌、とくに大腸癌肝転移におけるC5a-C5aR機構を介した転移・浸潤メカニズムを解析し、tumor-stromal interactionにおけるC5aRの役割について解析する。さらに臨床応用につながることを目指しこれらをターゲットとした治療効果について検討する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1.大腸癌細胞株、肝stellate cellにおけるC5aR発現:C5aR抗体を用いてWestern Blot法で大腸癌細胞株(HCT15、HCT116、colo205)および肝stellate cell (LX2)においてC5aRの発現を確認した。 2.C5aR発現を有する胃癌細胞株AGSにCDDPを加え、apoptosis assayを行ったところ、C5aを加えることによりcleaved caspase3の発現低下がみられたことから、C5aRによる抗がん剤体制機能が示唆された。 3.C5aによるHSCの活性化:C5aR発現を有するLX2にrecombinant C5a (rC5a)で刺激したところ、時間依存的にαSMAの発現亢進を認めたことから、C5a-C5aRによりHSCの活性化が起こってることが示唆された。 4.大腸癌肝転移症例における活性化HSCの確認:大腸癌肝転移標本からαSMA抗体を用いて免疫染色で活性化HSCを同定したところ、肝転移巣内および周囲にαSMAの発現を認めた。またC5aR抗体との二重染色を共焦点顕微鏡で行ったところ、αSMAとC5aRは染色性の一致を認めた。さらに複数例の大腸癌肝転移切除を染色した結果、αSMA陽性群は陰性群にくらべ生存期間には差はなかったが、有意に腫瘍径、個数が多く、無再発生存期間も短かった。 5.癌-間質細胞のC5aRを介した浸潤・増殖メカニズムについて解析するため、サイトカインアレイを用いて解析した。現在C5aで刺激したHSCと大腸癌細胞株とを共培養した際の培養上清中のサイトカイン(SDF-1、HGF、CXCL8, CXCL12等)の測定をアレイを用いて解析しているが、十分量の上清濃度を得るための条件設定に難渋しているため、現在進行中である。
|
今後の研究の推進方策 |
大腸癌肝転移巣においても癌病巣周囲のHSCにC5aRの発現があることをin vivo、in vitroで確認した。さらに腫瘍周囲のHSCのC5aR陽性例は陰性例にくらべ再発が早いことが分かったため、HSCにおけるC5aRをターゲットとした治療は臨床上有用であると考える。今後はC5aR antagonistに癌細胞浸潤抑制効果があるか否かをin vitro、in vivoで検討する。 1.C5a刺激を行ったHSCが大腸癌細胞株に与える影響をgrowth assay、invasion assayを用いて解析する。具体的には、invasion assay kitの下層にHSC+C5aをアプライし、上層にC5aRの発現の無い大腸癌細胞株をアプライする。一定時間反応させたのち、チャンバーの下層に浸潤した細胞をカウントする。さらにHSCをC5aR antagonistまたはC5aR-siRNAによるknockdownすることで肝細胞癌浸潤抑制効果を確認し、C5a-C5aR特異的なcancer-stromal interactionを確認する。 2.HSCのC5aRを介した大腸癌転移促進効果についてin vivoで解析する。ヒトHSCと大腸癌細胞株を共培養したものを脾臓から注入し肝転移モデルを作成する。その際にC5a刺激したHSC、C5a+C5aR antagonistで刺激したHSC、C5aRをknock downしたHSCをそれぞれ使用し、肝転移巣での腫瘍径、腫瘍個数、予後について検討する。また大腸癌肝転移巣がC5aR antagonistを経口投与させることで腫瘍縮小効果を認めるか否かを確認する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
今後、C5aR antagonistに癌細胞浸潤抑制効果があるか否かをin vitro、in vivoで検討する予定であり、動物実験購入・飼育費用にも充てたいと考える。 最新の研究情報を得るため、及び研究成果発表のための学会出張旅費に充て、研究データの管理、資料整理を行ってもらうための事務補佐員の雇用経費にも充てたいと考える。
|