研究課題
RUNX遺伝子ファミリーは、ヒトの疾患に深く関わる重要な遺伝子群であることが明らかとなってきている。今回我々は、世界に先駆けてRunx3ノックアウトマウスを作製し、その解析よりRUNX3遺伝子が胃粘膜の発生や分化に重要な役割をはたしており、この異常が胃粘膜の脱分化や異常増殖や癌化に関連することを示した。さらに胃癌細胞株及び臨床検体におけるRUNX3遺伝子の高頻度のコピー数減少、主にメチル化による発現低下、機能喪失型変異を確認しており、RUNX3が胃癌の新規がん抑制遺伝子であることを報告した。さらに胃癌の発生母地である慢性胃炎粘膜や腸上皮化生におけるRUNX3の解析や胃癌の転移浸潤におけるRUNX3の関与を明らかとし(Cllin Cancer Res, 2005)、将来的にはこれらに基づく胃粘膜の発ガンリスク予測や胃癌の転移予測などの遺伝子診断や遺伝子治療を目指しており、胃癌の発ガン予防や消化管粘膜再生にも応用しうると考えている。また胃癌以外の肝癌、膵癌、乳癌、胆管癌などにおけるRUNX3の異常も明らかになってきており、最終的には、RUNX3を分子標的とした癌予防と治療により国民健康の増進と医療費の抑制に寄与しうると考えている。
2: おおむね順調に進展している
おおむね順調に推移している。
これまでのRUNX3ノックアウトマウスや胃癌臨床検体での解析結果に基づき、より詳細なRUNX3の機能解析と診断や予防・治療への応用を目指す。具体的には以下を展開する。1. 胃癌発生母地、特に腸上皮化生や残胃粘膜、残胃癌でのRUNX3の発現変化の検討 2. RUNX3のSNPs (single nucleotide polymorphism) のタイピングと胃癌罹患感受性診断への応用 3. 胃癌臨床検体及び周囲背景粘膜における胃癌前駆細胞のスクリーニング 4. 胃癌発生リスク評価への応用・胃癌前駆細胞の探索とその追跡調査(コホ-ト研究) 5. 複数遺伝子MSPによる遺伝子診断、定量的検査の自動化・血清診断への応用 6. ラット・マウス化学発癌モデルを用いたRUNX3遺伝子発現誘導による発癌予防実験 7. HDAC (ヒストン脱アセチル化酵素) 阻害剤やウイルスベクターや各種化合物を用いたRUNX3の発現誘導と癌治療への応用 8. 各種悪性腫瘍におけるRUNX3の放射線や抗がん剤感受性への関連の検討既に我々は、胃癌前駆細胞のマーカーを数種類同定しており、早期多発胃癌切除標本の背景粘膜において胃癌前駆細胞を探索しつつある。また新しいHDAC阻害剤FK228やSAHAなどが開発され臨床応用されつつある。我々はこれらの薬剤がRUNX3を発現誘導し、マウス化学発癌モデルにて発癌抑制効果を示すことを確認しており、RUNX3を分子標的とした発癌予防や癌治療に応用しうると考えている。さらにRUNX3はTGFβ依存性アポプトーシスに重要な役割を果たしており、放射線化学療法の感受性に関与していることが明らかになりつつある。既に我々は日立ソフトLuminexシステムにより、多数の検体における複数遺伝子のメチル化を定量的に短時間で測定しうる迅速血清診断システムを確立しており、実地臨床に応用可能と考えられる。
前年度までに購入した生化学試薬、とくにPCR関連試薬の残量が多かったために本年度予算に計上した金額の一部が未使用となった。
上記の繰り越しとなった金額を使用して本年度に各種生化学試薬を購入する予定である。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 4件)
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