研究実績の概要 |
前年度までに、我々はRUNX遺伝子群のスクリーニングと機能解析を行い、RUNX1は血球系の分化に重要であり急性骨髄性白血病の原因となることを報告してきた (Sakakura et al.,PNAS,1994; Okuda et al, Cell, 1996)。またRUNX遺伝子群の一つであるRUNX3を単離し (Bae et al., Gene, 1995)、これらがTGFbeta;シグナル伝達系の重要な分子であるSmad2-4と結合することを報告した (Hanai et al., JBC 1999)。我々は、世界に先駆けてRunx3ノックアウトマウスを作製し、その解析をおこなったところ、胃粘膜の高度の過形成を認めた。Runx3遺伝子が胃粘膜の発生や分化に重要な役割をはたしており、この遺伝子の異常が胃粘膜の脱分化や異常増殖や癌化に関連する可能性が考えられた。 またRUNX3は胃癌の共通欠失領域の一つである1p36にマップされる。ノックアウトマウスでのデータと併せて、胃癌発生との関連が推測されたため、胃癌細胞株及び臨床検体のRUNX3遺伝子のコピー数、発現異常の解析を行った。 約25% にコピー数の減少、約65% に発現低下を認めた。さらにRUNX3のプロモーター領域を同定し、塩基配列を調べたところCpGアイランドが多数存在することが明らかとなった。そこで胃癌細胞株及び臨床検体でmethylation specific PCRを行ってメチル化の有無を調べたところ、RUNX3発現低下とプロモーター領域のメチル化に正の相関が認められた。 今後、RUNX3遺伝子が、いかなるシグナルの制御を受けて胃粘膜の発生、分化、癌化に寄与しているかが近未来の研究課題と考えられ、さらに新たな知見が得られると考えられる。またRUNX3遺伝子が、いかなる下流遺伝子群を制御しているかが重要な点である。これまでのDNAチップの解析によると下流遺伝子群は細胞周期調節因子や増殖因子受容体であり、一部はルシフェラーゼアッセイなどのプロモーター解析で確認されている。
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