研究課題/領域番号 |
16K10526
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
高橋 典彦 北海道大学, 大学病院, 准教授 (30399894)
|
研究分担者 |
武冨 紹信 北海道大学, 医学研究院, 教授 (70363364)
川村 秀樹 北海道大学, 医学研究院, 特任教授 (70645960)
崎浜 秀康 北海道大学, 医学研究院, 客員研究員 (50533676) [辞退]
本間 重紀 北海道大学, 大学病院, 助教 (30533674)
下國 達志 北海道大学, 医学研究院, 客員研究員 (30596458) [辞退]
吉田 雅 北海道大学, 大学病院, 特任助教 (70772333)
北村 秀光 北海道大学, 遺伝子病制御研究所, 准教授 (40360531)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 大腸がん / 肝転移 / IL-6 / STAT3 / microRNA / マクロファージ / 樹状細胞 / キラーT細胞 |
研究実績の概要 |
現在、日本人の死亡原因の第一位はがんで、特に大腸がんの発生、罹患率は年々増加をしており、既存の標準治療に加え、新たながん治療の開発が望まれている。本研究では、担がん環境下で産生されるIL-6に着目し、大腸がんの肝転移メカニズムにおける宿主免疫システムへの作用・効果を検討し、新規がん治療法開発への応用を目指した。 はじめにマウス大腸がんCT26細胞株をマウスの脾臓内に投与する大腸がん肝転移モデルを作出し、担がん環境から産生されるIL-6の作用効果を検討したところ、IL-6欠損条件下では、肝転移巣の形成が著しく抑制され、生存率も延長することを確認した。また、本モデルマウスの肝転移巣において、IL-6欠損下では、成熟型の樹状細胞やエフェクターメモリータイプのキラーT細胞の浸潤が認められた。マウス生体より樹状細胞・マクロファージあるいはキラーT細胞を除去したところ、IL-6欠損による肝転移巣の形成抑制効果が解除された。 さらに、大腸がん患者臨床検体を使用し、血清IL-6レベルやがん細胞の悪性化に関連する血清microRNAを探索した。候補microRNAを高発現するヒト大腸がん細胞株を作出し、免疫不全マウスの脾臓に移植するヒト化大腸がん肝転移モデルに使用したところ、血清IL-6レベルの上昇と肝転移巣の形成促進が認められた。 本研究成果は担がん環境下で産生されるIL-6が抗腫瘍免疫を抑制し、肝転移を促進する作用をもつことを示唆することから、IL-6シグナルカスケードの遮断はがん免疫治療において有効な戦略の一つとなり得ることが期待される。引き続き、本研究を進めることで、最終的に大腸がん・肝転移領域における、宿主抗腫瘍免疫の制御による画期的ながん治療法の確立に繋ぐ科学的エビデンスが得られると考える。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々はこれまでに、IL-6シグナルが樹状細胞の成熟、抗原提示能を抑制し、がん抗原特異的T細胞の活性化をも抑制することを明らかにしてきた。本研究において、マウス大腸がんCT26細胞株をマウスの脾臓内に投与する大腸がん肝転移モデルを作出し、担がん環境から産生されるIL-6の作用効果を検討したところ、IL-6欠損条件下では、肝転移巣の形成が著しく抑制され、生存率も延長することを確認した。また、本モデルマウスの肝転移巣において、IL-6欠損下では、成熟型の樹状細胞やエフェクターメモリータイプのキラーT細胞の浸潤が認められた。マウス生体より樹状細胞・マクロファージあるいはキラーT細胞を除去したところ、IL-6欠損による肝転移巣の形成抑制効果が解除された。肝転移巣に浸潤しているCD11c陽性樹状細胞を単離し、各種遺伝子発現プロファイルを確認したところ、IL-6欠損条件の樹状細胞において、IFN-α/βやIL-12の発現亢進が確認された。また腫瘍内浸潤CD8陽性T細胞について、フローサイトメトリーによる解析を行ったところ、IL-6欠損条件において、細胞傷害性分子の発現レベルが高いことを確認した。さらに、大腸がん患者臨床検体を使用し、血清IL-6レベルやがん細胞の悪性化に関連する血清microRNAを見出した。このmicroRNAを高発現するヒト大腸がん細胞株を作出し、免疫不全マウスの脾臓に移植するヒト化大腸がん肝転移モデルを作出したところ、マウス血清中のIL-6レベルの上昇と肝転移巣の形成促進が認められた。 以上の結果から、本研究は当初の予定の通り進むとともに、今後IL-6シグナル下流標的分子の同定、マウス肝転移モデルでの治療効果の検証、さらに大腸がん患者のIL-6発現、産生レベルと免疫細胞の動態、病態との関連を精査することで、より有効ながん免疫治療の開発に資する有望な成果・エビデンスが蓄積できるものと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでに得られた研究成果をもとに、引き続き、IL-6シグナルカスケードおよびその下流・関連分子を標的とした宿主抗免疫抑制状態の改善による大腸がん肝転移治療の有効性を証明する。そこで本研究で構築した大腸がん肝転移モデルマウスより単離した各種エフェクター細胞およびがん細胞を使用したトランスクリプトーム解析結果から、本研究で肝転移への関与が示された候補microRNAに加え、その標的因子に対するアンタゴニスト、中和抗体およびノックアウトマウスを使用して、大腸がん肝転移への関与を検証するとともに、これらの標的分子を基軸としたがん治療の有効性を証明する。 またヒト化大腸がん肝転移治療モデルを使用し、一般的な標準がん治療として使用されている制がん剤の投与を行うとともに、前述のIL-6関連microRNAおよびその下流・関連分子を標的とする薬剤との併用治療を行なう。これらの研究成果を活用し、実際の大腸がん患者に対する治療において、より有効な方策を検討する。 さらにヒト臨床検体を蓄積し、IL-6関連分子と大腸がん患者の肝転移、生命予後との相関関係を詳細に検証する。そこでIL-6と関連し、被験者個々の病態や抗腫瘍免疫状態を解析・評価することができる新規バイオマーカーの探索と同定を行い、大腸がん患者の治療の選択、判断基準に有用であることを明らかにする。 本研究において、マウス大腸がん肝転移モデル、ヒト化肝転移治療マウスモデルによる検討、およびヒト臨床検体を使用した標的因子の検証で得られる結果を精査し、IL-6シグナル、下流・関連分子を標的としたがん治療の有効性を証明するとともに、大腸がん患者個々の免疫状態に応じた最適化治療プロトコルを整備することで、最終的に、より効果の高いがん免疫治療の開発に繋ぐ。
|