研究実績の概要 |
本研究の目的は,炎症性発癌における肺外サーファクタント蛋白D(SP-D)およびTNFα変換酵素であるADAM17の役割について,モデルマウスを用いて明らかにすることを目的としている.過去2年の研究では,デキストラン硫酸ナトリウ ム(DSS)溶液およびアゾキシメタン(AOM)を投与するDSS誘導炎症性発癌モデルマウスを用いて,通常の野生型C57Bl/6マウスとSP-Dノックアウトマウスで腫瘍の発現頻度や腫瘍サイズなどの比較を行ったところ、ノックアウトマウスのほうが、腫瘍のサイズの一つ一つは小さいものの1個体あたりの腫瘍数は多く、腫瘍発生マウスの頻度も高いことを明らかにした.本年度では,この違いを腫瘍の分子的変化から明らかにすることを勧めた.具体的には,摘出した腫瘍それぞれの炎症性発癌に関連する様々な分子(EGFR, pEGFR, ERK, pERK, p53, Ki67, ADAM17)のタンパクレベルをそれぞれの分子に対する抗体を用いて免疫組織染色法にて比較検討を行った.結果これらの分子のタンパクレベルにおいて明らかな差異を見出すことはできず,一般的に知られる炎症性発癌に関連するマーカーとSP-Dに関連はない可能性が考えられた.今後は,それぞれの腫瘍のマイクロアレイによる網羅的解析を行い,候補遺伝子の検索を行っていく.当初ADAM17コンディショナルノックアウトマウスとSP-Dノックアウトマウスを交配させてダブルノックアウトマウスを作成して,両分子の関係について追及する予定であったが,本研究結果から関連性が低いこと,またトラブルによりADAM17コンディショナルノックアウトマウスの作成に時間を要したことから,これまでの結果をまとめて今後の方針を検討していく予定である.
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