研究課題/領域番号 |
16K10555
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
有田 通恒 東邦大学, 医学部, 助教 (80307719)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | EMAST / 低酸素 / p53 / ミスマッチ修復 / MSH3 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、進行性大腸癌の転移主因分子の同定を最終目標とする。成功率を高めるために、大腸癌悪性度と相関するゲノム不安定性EMASTのin vitro誘導系を用いることで転移の初期にも焦点を当て、転移過程で一過的に働く分子も探索対象する。さらに、EMAST細胞をヌードマウスに生着させ、これを摘出し再び生着させる反復操作により、EMASTに関連した転移細胞の濃縮を行う。初年度は生着条件の検討から着手した。また、並行して、低酸素性EMAST誘導にp53機能欠損が必須であることの普遍性についても検証した。 Xenograft生着条件の検討では、低酸素下で培養したSW480をモデル細胞株として用いた。トリプシンで単一細胞としたのち一定数に調整し、ヌードマウスの尾静脈より移入した。その後、これら細胞の生着を観察したが、これまでのところ肉眼で認められる癌細胞の生着を得られていない。手技の向上を目指しながら、引き続き移入実験を行い、生着個体・生着細胞を得る。 EMASTとp53機能の関連については、ミスマッチ修復野生型・p53機能欠失型細胞株のSW480とSW620、ならびに、SW620に野生型p53を発現させたSW620(p53wt)を用いて検討してきた。その結果、低酸素性のEMAST誘導にはp53の機能欠損が必須であることを初めて実験的に示した。本研究計画の礎となるこの仮説の普遍性を検証するために、今年度はさらに複数の細胞株を加えた検討を開始した。p53野生型(HCT116+3+5、MCF-7、HEK293)とp53機能欠失型(HT-29、HeLa S3)のミスマッチ修復野生型細胞株を通常酸素濃度もしくは低酸素濃度で培養した後、限界希釈法により100以上のクローンを得た。これらクローンのゲノムDNAを用いて、現在、マイクロサテライト解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本課題立案時は、マウスを用いた転移性のEMAST癌細胞の初回の生着と摘出が終了しており、場合によっては2回目以降の移入・生着・摘出に移行している計画であった。しかし、初年度終了時の段階で、解析や反復移入に供せる生着癌細胞が得られておらず、進捗状況は上記区分を選択した。この遅れは主に、マウスを用いた動物実験手技が一定水準に達していなかったこと、in vitro EMAST誘導条件の確立に関する論文投稿に仮説の普遍性を示す追加データが必要となったことに起因する。
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今後の研究の推進方策 |
前項に記載した通り、本研究課題の進捗はやや遅れている。その要因として、1)動物実験の手技水準が確立していなかったことと2)研究成果報告に追加データが必要となったことの2つが挙げられる。これら課題の解消のために、それぞれ以下の対応を行っている。 1)手技水準の向上:マウスの扱いに習熟した研究者から学びながら、尾静脈注射の習得を行う。また、移入に供する癌細胞の生存効率を上げるために、操作時間の短縮を工夫する。 2)研究成果報告に必要な追加データの取得:本研究課題は「p53機能欠失が低酸素性EMAST誘導に必須である」という仮説が基盤である。研究成果の公開に当たっては、本仮説の実証に関する報告と仮説に基づいた転移主因分子の探索と同定に関する報告の大きく二段階に分ける。最初の報告に際して、仮説の普遍性に関するデータが不可欠となった。そこで、複数の細胞株を用いた検証結果を加えることで対応し、すでに解析の段階にまで進んでいる。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の進捗状況が計画に比べてやや遅れたため、当初計画した経費のうち一部が発生しなかった。一方で、初年度の計画に計上しなかった経費使用も発生した。追加の経費を最小限に抑えるよう工夫した結果、ほぼ計画経費内で遂行できたため僅かながら残額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
本課題は次年度も助成対象期間であるため繰越しとし、物品費として使用する。また、次年度は計画の遅れを解消することに注力するが、一方で、それに伴って次年度の経費計画にない費用の発生も予測される。当初の経費計画内での遂行を可能とするため、無駄な解析は極力排除する。あらゆる解析については試薬の少量化に努め、特に、マウスから得られた転移性癌細胞の性状解析については実施回数の見直しも行い、物品費を節約する。
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