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2016 年度 実施状況報告書

エピゲノム制御に基づく薬剤耐性克服と新規大腸癌幹細胞標的療法の基盤研究

研究課題

研究課題/領域番号 16K10559
研究機関千葉県がんセンター(研究所)

研究代表者

下里 修  千葉県がんセンター(研究所), 発がん研究グループ DNA損傷シグナル研究室, 上席研究員 (30344063)

研究分担者 尾崎 俊文  千葉県がんセンター(研究所), 発がん研究グループ DNA損傷シグナル研究室, 室長 (40260252)
早田 浩明  千葉県がんセンター(研究所), 消化器外科, 主任医長 (90261940)
研究期間 (年度) 2016-04-01 – 2019-03-31
キーワード大腸がん / 癌幹細胞 / エピゲノム的制御 / JHDM1B/KDM2B / 薬剤耐性
研究実績の概要

がん難治性の本体として想定される「癌幹細胞」に関する基礎研究は重要な課題であるが、これを解析しようと単離するには技術的困難がある。こうした背景の中で、正常組織幹細胞の培養法であるスフェア培養は癌幹細胞の培養モデルになると考えられている。申請者らは、大腸がん細胞から誘導したスフェア細胞が薬剤抵抗性の分子機序の一部として、ヒストン脱メチル化酵素JHDM1Bの関与を見出した。そこで、エピゲノム的機構による薬剤耐性獲得の全体像の解明と、それに関るJHDM1Bを標的とする治療応用性の検討を本研究の目的とした。
本年度はJHDM1Bが発現制御する薬剤耐性関連遺伝子群の探索を行った。大腸がん由来細胞株から誘導したがん細胞スフェアにおいて、JHDM1B遺伝子の発現が低下するのと同時に抗酸化関連遺伝子群の発現上昇が観察された。両者の連携を検討するために、shRNAを用いてJHDM1B遺伝子を低下させた「KD細胞」を作製した。このKD細胞では上記遺伝子群の一部で発現が上昇した。したがって、JHDM1Bはエピゲノム的機序で当該遺伝子群を抑制する可能性が示唆された。さらに、JHDM1B遺伝子の発現増強は抗がん剤感受性を高める効果が期待される。
一方、人工有機化合物であるピロール・イミダゾール-ポリアミド(PIP)は塩基配列特異的にDNA分子と結合し、特定の遺伝子発現を正あるいは負に制御する「スイッチ」としての作用することが報告されている。そこでPIPをJHDM1Bの発現増強に応用するための基盤研究として、本年度はPIPの細胞内取込機構の解明を目指した。異なる疎水性度を持つ6種類のPIPを合成し細胞内局在を検討した結果、すべてのPIPは大腸がん細胞の核内に集積した。特に、疎水性の高いPIP分子では受動拡散によって細胞に取り込まれるのに対して、親水性の高いPIP分子では能動輸送の関与が高かった。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

上述の実績に示したように、ヒト大腸癌培養細胞を用いた解析については年度当初に申請した計画内容を実施することができ、ヒト大腸癌細胞の薬剤耐性におけるJHDM1Bの役割が明らかになりつつある。また、遺伝子発現制御を可能にするPIP分子の基礎研究についても一定の成果が得られている。
したがって、現在の達成度は概ね順調であると判断する。

今後の研究の推進方策

1.スフェア化にともなうJHDM1B遺伝子の発現抑制機構の解明とPIPを応用した薬剤耐性克服の検討(下里):HDAC阻害剤を用いて、JHDM1B遺伝子の発現制御におけるヒストンアセチル化の関与を検討する。さらに、スフェア細胞におけるJHDM1B遺伝子のプロモーター/エンハンサー領域のヒストン修飾状況をqChIPで解析する。また、JHDM1B遺伝子のプロモーター/エンハンサー領域と選択的に結合するPIPにSAHAを連結した化合物(PIP-SAHA)を合成し、当該分子がJHDM1B発現を選択的に増強させるかどうかを検討する。
2.大腸がんの薬剤耐性におけるJHDM1Bの機能解析(下里・尾崎):平成28年度の実験で見出した候補遺伝子群について、JHDM1B-KD細胞あるいは大腸がんスフェアにおける当該遺伝子群のプロモーター・エンハンサー領域、あるいはgene body領域のヒストン修飾状況をqChIPで解析する。さらに、JHDM1Bの当該領域への直接結合も同手法で検討する。なお、内在性JHDM1Bの免疫沈降が難しい場合、すでに構築済みのJHDM1Bを過剰発現する細胞を用いて対応する。
3.大腸がん臨床検体におけるJHDM1B遺伝子発現の臨床的意義の検討(下里・早田):JHDM1B遺伝子量が低かった症例については、レーザーダイセクションを用いて切り出した腫瘍細胞に富む組織部のゲノムDNAを抽出する。メチル化特異的PCR法などを用いて当該プロモーター領域のメチル化を調べ、その発現量との相関の有無を検討する。
4.PIPを利用したがん幹細胞標的薬剤送達システムの基盤研究(下里):大腸がん由来スフェアで上昇している遺伝子群をマイクロアレイを用いて精査し、癌幹細胞でPIPの取り込みに関与する候補遺伝子群を探索し、その発現量からPIPの取り込みを予測することができるかどうかを検討する。

次年度使用額が生じた理由

今年度は国内学会での成果発表のみであったため、国際学会への参加旅費を見込んで計上していた「旅費」、ならびに論文投稿費用を見込んでいた「その他」の項目で年度当初での使用計画との間で差額が生じた。

次年度使用額の使用計画

次年度使用額はすべて物品費として使用し、今年度の使用計画とする。他の項目に変更はない。また、1式が50万円を上回る物品を購入する予定はない。
本研究には代表者を含めて3名の参画がある。エフォートに応じて、研究代表者が研究費の6割を、2名の分担研究者が4割を使用する予定である。

  • 研究成果

    (5件)

すべて 2017 2016

すべて 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件)

  • [学会発表] スフェア培養を用いたがん幹細胞が有する悪性形質獲得機構の解明2017

    • 著者名/発表者名
      下里 修、早田浩明、尾崎俊文
    • 学会等名
      第16回日本再生医療学会総会
    • 発表場所
      仙台国際センター
    • 年月日
      2017-03-07
    • 招待講演
  • [学会発表] Internalization of DNA minor groove binder pyrrole-imidazole polyamide into cancer cells via active transport machineries2017

    • 著者名/発表者名
      下里 修、尾崎俊文
    • 学会等名
      International symposium for the drug-discovery of the pyrrole-imidazole polyamides as novel biomedicines
    • 発表場所
      日本大学桜門会館
    • 年月日
      2017-02-24
  • [学会発表] Lipophilicity is a critical determinant essential for the efficient incorporation of pyrrole-imidazole polyamides into malignant tumor tissues2017

    • 著者名/発表者名
      井上貴博、下里 修、尾崎俊文
    • 学会等名
      International symposium for the drug-discovery of the pyrrole-imidazole polyamides as novel biomedicines
    • 発表場所
      日本大学桜門会館
    • 年月日
      2017-02-24
  • [学会発表] Internalization of DNA minor groove binder pyrrole-imidazole polyamide into cancer cells via actin-dependent mechanism2016

    • 著者名/発表者名
      下里 修、早田浩明、尾崎俊文
    • 学会等名
      第75回日本癌学会学術総会
    • 発表場所
      パシフィコ横浜
    • 年月日
      2016-10-08
  • [学会発表] スフェア形成能を有する大腸がん細胞のエピゲノム的薬剤耐性機構の解析2016

    • 著者名/発表者名
      内海京寛、下里 修、早田浩明、尾崎俊文
    • 学会等名
      第25回日本病態治療研究会
    • 発表場所
      三井ガーデンホテル千葉
    • 年月日
      2016-06-08

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公開日: 2018-01-16  

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