研究課題
正常組織幹細胞の培養法であるスフェア培養はがん難治性の本体として想定される「癌幹細胞」の培養モデルとして注目されている。申請者らは、大腸がん細胞から誘導したスフェアが獲得する薬剤抵抗性の一部にヒストン脱メチル化酵素JHDM1Bの関与を見出だしている。そこで本年度は、このエピゲノム的薬剤耐性の全体像の理解と、その治療応用性を検討した。JHDM1Bのノックダウン(KD)は5-フルオロウラシル(5-FU)やオキサリプラチン(L-OHP)に対する抵抗性をもたらした。この仕組みを理解するために、遺伝子発現変化の全体像をマイクロアレイ法で検討した。その結果、前年までに得られていた抗酸化関連遺伝子群に加えて、薬物代謝関連遺伝子群の発現上昇が観察された。さらに、クロマチン免疫沈降の結果から、発現変化した一部の遺伝子についてはその上流部分にJHDM1Bが結合し、KD細胞ではその遺伝子上流部分のヒストン修飾(H3K4me3)のレベルが亢進していた。反対に、JHDM1B cDNAを過剰発現するOE細胞を作製し薬剤感受性を検討すると、5-FUやL-OHPに対する感受性が高まることを見出した。当該細胞内の遺伝子発現状況を解析した結果、KD細胞で発現上昇していた抗酸化関連遺伝子群は、OE細胞で発現低下していた。最後に、実臨床におけるJHDM1B発現レベルの影響を解析するために、大腸がんコホートの臨床情報と発現レベルを解析した。その結果、JHDM1Bの低発現と前述した薬剤抵抗性関連遺伝子の高発現は術後アジュバント療法を受けた患者の無再発生存期間の短縮につながることが示された。以上から、JHDM1Bはエピゲノム的にこれらの薬剤抵抗性遺伝子群を包括的にエピゲノム的に制御している可能性が示唆された。さらに、JHDM1Bの発現レベルは大腸がん化学療法の感受性を示唆するマーカーとなりうると考えられた。
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Oncology Report
巻: 39 ページ: 2749-2758
10.3892/or.2018.6344