研究実績の概要 |
近年、大腸がんを含む多くの難治がん種においてがん幹細胞の存在が報告されており、発がん・転移・薬剤抵抗性の過程に大きく関与している事が明らかになりつつある。当研究室では、大腸がん臨床検体からがん幹細胞の特徴を有するスフェロイド細胞の継代培養系を確立している。大腸がん原発巣から樹立したスフェロイド細胞に比べ、肝転移した大腸がんから樹立したスフェロイド細胞において、メタボローム解析によりキヌレニン量の増加やマイクロアレイ解析によりキヌレニン合成酵素Tryptophan 2,3-dioxygenase (TDO2)の発現が亢進していることを発見している。このことから、がん幹細胞転移にTDO2やキヌレニンが関与していることが示唆された。キヌレニンは、免疫細胞を制御する。一方、がん細胞においては、転移能を促進させるとの報告もある。TDO2はがん細胞内で発現が上昇しているが、未だキヌレニンやTDO2のin vivoにおける免疫抑制やがん細胞転移の作用メカニズムの解明は十分ではない。大腸がん細胞におけるTDO2発現変化がもたらす影響を解析するために、マウス大腸がんCT26細胞株を用いて、レンチウイルスによる過剰発現系を構築し、in vitro細胞培養系における細胞増殖と移動能に対する変化を解析したところ、共に影響を及ぼさないことを新しく明らかにした。キヌレニンは免疫細胞の制御に関与することが報告されていることから、免疫細胞を抑制することによりがん細胞遊走能が亢進していると考えられた。また、個体レベルにおけるTDO2の機能を解析するために、マウス転移モデル用いてTDO2を過剰発現したCT26細胞を移植した場合の腫瘍増殖、転移能、ならびに免疫細胞への影響を解析している。さらに、診断マーカーまたは治療法の新しい分子標的としての意義を明らかにするため、臨床検体スフェロイド細胞を用いて解析している。
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