昨年度までに手術検体から作成した組織アレイを用いた網羅的な糖鎖発現解析により同定した、癌細胞を特異的に認識するレクチンを用いて、正常部と癌部の反応性に関してより詳細な検討を行なった。その結果、膵癌において1、フコース結合レクチンでは、各レクチン共に癌部、正常膵管ともに高い陽性率を示し、同一症例内の変化が少ないこと、2、シアル酸結合レクチンでは各レクチンに反応性の差を認め、半数の染色を認めるものもあるが、同一症例内の変化はないこと、3、分岐型N型糖鎖結合レクチンでは、2レクチンとも、癌部、正常膵管ともに全例で強陽性であったこと、4、未熟O型糖鎖では、半数の症例で各レクチンが陽性反応を示し、同一症例内では特にレクチンYに置いて、癌部、正常膵管で高い変化率を確認することが出来た。レクチンYでは、約半数の症例で癌細胞特異的に反応性が高くなることを確認した。このレクチンYの反応性を多臓器の悪性腫瘍での反応性を確認したところ、肺腺癌、大腸癌、胃癌、乳腺癌、食道癌、胆管癌で特に反応性が高く、腺癌で特に高い陽性率を確認した。特に膵癌では全68検体での染色したところ、39例で癌部と正常膵管での反応性に変化を認めた。これらの知見は、癌化における糖鎖修飾の変化をレクチンで検出した新たな知見と言える。レクチンYが認識する糖鎖(Tn)は、膵癌において悪性化と関連する抗原として同定されており、過去の既報とも合致する所見であった。また、レクチンYの反応性が予後に与える影響についても解析し、レクチンYが陽性群で有意に予後不良であること(P=0.037)を明らかにした。今後、レクチンYを用いて、新たなLiquid Biopsyのターゲットとした研究開発につなげていく予定である。
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