研究実績の概要 |
本研究は、大量肝切除後肝不全回避目的に施行される切除側門脈塞栓術を模倣したマウス門脈結紮術(portal vein ligation, PVL)モデルを用い、門脈結紮(予定切除)葉と非結紮(予定残肝)葉におけるPVL後の脂質変化等を検討した。 液体クロマトグラフィー(LC-MS)を用いた解析で、非結紮葉でPVL24時間後に一過性にtriglycerides (TGs)が増加、引き続き細胞膜構成成分phosphatidylcholines (PCs)が増加した。これらの現象に関与する因子のmRNA発現をRT-PCR法で解析した。非結紮葉では細胞内脂質輸送蛋白FABP mRNAがPVL後24時間で増加したことより、TGs貯蓄はFABPを介する可能性が示唆された。次に貯蓄したTGsを介したPCs産生増加機構を解明すべくTGsをdiglycerides(DGs)と脂肪酸に分解するATGL、DGsにリン酸化コリンを結合してPCs合成するCTP、遊離脂肪酸をlyso-PCsに付加してPCs合成するLPCAT3などのTGs/PCs代謝関連酵素を解析したが、どの酵素mRNAもPVL前後で発現量に変化はなかった。 またインドシアニングリーン(ICG)静注後の取り込みICG由来肝表輝度を近赤外線カメラで測定した。PVL施行直後の観察では、非結紮葉の肝表輝度はコントロールマウス肝と比較して高く、逆に結紮葉肝表輝度はコントロールの75%程度に減少した。これらの結果は、ICGの肝への取り込みは門脈血流に依存していること、PVL直後に非結紮葉への門脈血流増加を示唆した。 以上より、貯蓄TGs減少およびPCs増加の機構は不明であるものの、PVL直後に門脈血流が増加することおよびFABPによる遊離脂肪酸の取り込みが、非結紮葉の一過性TGs貯留を介した肥大を引き起こしている可能性が示唆された。
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