研究実績の概要 |
我々はこれまでにActivated protein C (APC) が肝虚血再灌流障害 (IRI) に対し細胞保護があることを報告しているが、近年、APCが細胞内shpingosine-1-phosphateを介してshpingosine-1-phosphate 1 receptor (S1PR1) を活性化するという機序が報告されている。S1PR1は血管や炎症細胞など様々な部位に発現するが、我々はAPC投与マウスのIRI肝にてS1PR1の発現が亢進していることを確認している。S1PR1は肝IRIにおいて新たなターゲットになりうると考え、その選択的作動薬であるSEW2871を使用し、肝IRIにおける効果を検討した。 【方法】C57BL6マウスによる60分間の70%肝IRIモデルを用いて、SEW2871投与群 (S群)とコントロール群 (C群)とに分け、比較検討した。 【結果】S群ではC群と比較し、再灌流後4, 24時間で, 肝酵素の有意の低下を認め肝障害が軽減されており、組織学的にも4時間後での著明なcongestionの改善と, 24時間後の肝組織壊死範囲の減少を認めた。 S群では4時間後の血中リンパ球が有意に減少し, 肝組織でのIFN-γ、IL-6、TNF-α 、VCAM-1 の著明なmRNA発現の低下を認めた。myeloperoxidase活性の低下を認めた。またS群で24時間後の肝組織中のLy6G陽性細胞、MAC1陽性細胞浸潤が有意に減少していた。さらにS群では4時間後のVE-cadherinとp-eNOSの発現が有意に高かった。 【結論】S1PR1作動薬はマウスIRIにおいて、血液中のリンパ球減少、肝でのサイトカイン、接着因子と炎症細胞浸潤を減少させるだけでなく、類洞内皮の安定化による血管抵抗低下によって類洞循環障害を低減し、虚血再灌流障害を改善すると考えられた。
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