研究課題/領域番号 |
16K10572
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
野田 剛広 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (50528594)
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研究分担者 |
和田 浩志 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (00572554)
後藤 邦仁 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (10362716)
阪本 卓也 大阪大学, 医学部附属病院, 医員 (40645074)
江口 英利 大阪大学, 医学系研究科, 准教授 (90542118)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 胆道癌 / 低酸素 / 上皮間葉移行 / 間質 |
研究実績の概要 |
胆道癌切除検体における免疫組織化学染色の結果、主に細胞質に発現が認められ、強陽性(n=19)をPLOD2強陽性群、陰性と弱陽性をPLOD2弱発現群(n=33)の2群に分類した。PLOD弱発現群と強発現群の2群間において、臨床病理学的因子の比較を行った結果、強陽性群においてリンパ節転移の陽性例(p=0.037)およびpStageが進行した症例(p=0.001)が有意に高頻度であった。Kaplan-meyer法による、胆道癌切除例におけるPLOD2の発現程度別の無再発生存および全生存解析では、いずれにおいても強発現例において有意に予後不良であった(p=0.0012, p<0.0001)。全生存におけるCoxの比例ハザードモデルにおける単変量解析では、pN因子、pM因子、PLOD2の発現が有意な因子として同定され、さらに多変量解析では、PLOD2が独立した予後不良因子であった(p=0.019)。 胆道癌に対する主要な抗癌剤であるGemcitabine(GEM)の長期暴露により樹立したGEM耐性株(GR)におけるPLOD2の発現は、親株(Pt)と比較して、TFK-1, NOZ, CCLP-1のいずれにおいても2.5倍から12倍に増加を認めた。siRNA法によりPLOD2の発現は親株と同等レベルまで抑制を認めた。siRNA法によるPLOD2の発現抑制により、TFK-1, NOZ, CCLP-1のいずれの細胞株において、GEMへの感受性は改善を認めた。GEM耐性株(GR)において、親株と比較して上皮系マーカーのE-cadherinの発現低下、間葉系マーカーのN-cadherinの発現亢進を認めたが、PLOD2の発現抑制により、CDH1の発現の回復、CDH2、Vimentin、SNAI1の発現の減弱を認めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の研究実施計画においては、①肝胆膵領域癌細胞株における低酸素ストレスによるHIF-1を介したPLOD2発現解析、②臨床検体を用いた免疫組織染色によるPLOD2発現解析および臨床病理学的因子との相関比較・予後解析を胆道癌、膵癌にて、細胞株および切除検体を用いて、行う予定であった。胆道癌において、免疫組織染色を行い、PLOD2 強陽性群においてリンパ節転移の陽性例(p=0.037)およびpStageが進行した症例(p=0.001)が有意に高頻度であった。また無再発生存および全生存において、PLOD2の発現例は予後不良であることが明らかとなった。 遺伝子導入によるPLOD2の高発現株の作成は、高発現株の樹立がまだ出来ていない。化学療法耐性株をその代用として研究をすすめた。胆道癌において、化学療法耐性株においてPLOD2の発現が上昇しており、またsiRNAによる発現抑制によって、化学療法耐性が改善していることが示された。化学療法耐性と上皮間葉移行との関連について検討した結果、上皮系マーカーのE-cadherinの発現低下、間葉系マーカーのN-cadherin等の発現亢進を認めた。 このように胆道癌において、仮説を裏付ける結果が出ており、さらにin vitroにおいて化学療法耐性と上皮間葉移行との関連等の分子メカニズムに関して、研究を進めた結果、膵癌においては、研究が進まなかった。胆道癌においては、予定よりも遙かに研究計画は進行しているが、膵癌においては進まなかった。そのため、当初の予定において、概ね順調との判断とした。
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今後の研究の推進方策 |
交付申請書における平成29年度の研究計画では、①癌細胞株とヒト線維芽細胞の共培養によるin vitro/in vivo実験系の確立、②肝胆膵領域癌細胞株におけるウイルスベクターを用いたPLOD2強制発現株の樹立および機能解析としていた。 平成28年度の研究結果を踏まえ、平成29年度においては、胆道癌におけるPLOD2を介した化学療法耐性および上皮間葉移行に関して、HIF-1を介した低酸素シグナルの関連について、研究を進める予定である。siRNAによるPLOD2の発現抑制により、HIF-1の発現変化を検討する。また、癌細胞株とヒト線維芽細胞の共培養による実験の確立を行う予定である。ウイルスベクターを用いた遺伝子導入によるPLOD2の高発現株の樹立は困難と考えられ、前述のように、化学療法などの治療抵抗性株による発現状況を確認の上、使用することとする。胆道癌においては、化学療法耐性株においてPLOD2発現が上昇していることが確認できており、膵癌においても、当科で樹立された化学療法や放射線療法などの治療抵抗性株における発現を検討することとする。 また、胆道癌においては通常酸素下での培養においても、PLOD2の発現が見られており、これは肝癌細胞株には見られなかった現象であった。これは、肝胆膵領域癌でも、肝癌は多血性腫瘍であり、胆道癌・膵癌は乏血性腫瘍であることから、通常時より低酸素状態であることが推測される。胆道癌において、PLOD2の発現抑制による化学療法感受性や転移浸潤能の変化について検討を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験試薬の差額が生じた為。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の肝胆膵領域癌の低酸素環境下における癌間質をターゲットとした新規治療法の開発費用として計上見込み。
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