肝がんにおいて,肝内転移による術後早期再発は予後不良の一因である.がん幹細胞 (CSC) は転移や治療抵抗性に重要と考えられている.本研究は,癌の進展に伴って発生すると考えられる転移性のCSCに対するマーカーやその性質を明らかとし,癌の転移・再発を抑制する新たな戦略 (CSCに効果的な抗癌剤,核酸医薬,免疫療法等)をもたらすものである. これまでに,神経生存因子を含むことを特徴とする培地を用いて誘導した肝がんCancer stem-like sphere cells (CSLCs) が,マウス経門脈的肝転移能およびin vitroでの種々の抗がん剤に対する耐性を親株と比較して亢進することを確認してきた.肝細胞癌術後肝内転移抑制のコンセプトを得るために,肝癌予後不良臨床サンプルとCSLCsを統合解析することで,肝がん予後改善のための標的遺伝子の探索を行った. RNA-seq解析から,早期肝内再発群およびCSLCsに共通して有意な発現亢進を示す遺伝子群を同定した.この内の一つの遺伝子は,ノックダウンおよび片アレルノックアウトによって,Sphere形成不全や,種々の抗癌剤に対する耐性の減弱が見られた.上記遺伝子ノックアウトにおける抗癌剤耐性減弱は、該遺伝子の発現ベクター移入によって回復された.さらに,上記遺伝子ノックアウトは,抗がん剤耐性機構と関連する薬剤排出トランスポーターの発現や細胞周期への影響が観察された.経門脈的肝転移能を免疫不全マウス脾注にて検討したところ、上記遺伝子ノックアウトによって,転移能亢進が示されなくなった.また,本研究により誘導したCSLCsにおける免疫逃避機構の亢進を示唆する結果が示され,上述の遺伝子ノックアウトは免疫逃避機構にも影響を示した. がん幹細胞特性,特に治療抵抗性及び転移能に関与する遺伝子を同定した.
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