研究課題
肝細胞の代謝制御に関するメタボローム解析に先立ち、まずは正常肝及び病的肝(脂質代謝異常に基づく脂肪肝・ 非アルコール性脂肪肝炎・ 糖尿病など)における再生肝のオートファジーの役割を明らかにした。 具体的には、Cre-loxPの遺伝子ノックアウト手法を用いて、肝特異的にオートファジー関連遺伝子(Atg5)のノックアウト(KO)マウスを作成した。その後、同マウスを用い た肝切除後の肝再生を利用して肝細胞の代謝におけるオートファジーの意義について検討を行った。その際、脂肪肝マウスモデルを用いて比較検討を行った。 結果として、db/dbマウスはコントロールマウスと比較して、(1)有意に肝切除後の生存率が低く、肝再生率の遅延を認めた。(2)肝再生時における 血清ALT値は 有意に高かった。(3)オートファゴソーム数は有意に少なく、AP関連タンパク質であるAtg5の発現低下を認めた。 以上の結果より、脂肪肝部分切除後において オートファジーの機能が低下している可能性が強く示唆された。 さらに、機能解析の一助としてNrf2と呼ばれる細胞内レドックスの主な制御因子に注目した。Nrf2はantioxidant elements(ARE)の転写因子であり、細胞内代謝 の改変によりNADPH産生を亢進させ、細胞内ROSの制御に利用することが知られている。本研究においては、肝癌細胞株を用いた実験系において、肝癌細胞の遊走 能はNrf2抑制によって低下し、Keap1抑制によるNrf2活性化で亢進した。さらに、Nrf2抑制によって非接着培養での生存率が低下した他、単細胞からのスフェロ イド形成能はNrf2抑制によって低下し、Keap1抑制によるNrf2活性化で亢進する結果であった。 以上、本研究は、病的肝の再生時のオートファジーの役割解明につながるとともに、Nrf2-Keap1シグナルとの深い関わりが示唆された。