肝臓で産生されるVWF特異的切断酵素(ADAMTS13)が欠乏すると,血小板と反応性に富む高分子量VWFマルチマーが増加し,主要諸臓器において微小循環障害が惹起される.肝切除後には,ADAMTS13消費亢進と産生低下が生じる結果,VWF 依存性血小板凝集が生じ,肝微小循環障害を経て肝不全に至るとの仮説から,肝切除がUL-VWFMに及ぼす影響について検討した.当科にて根治的肝切除を施行した35例を対象とした.術前・術中・術後に血液をサンプリングし,ADAMTS13活性・VWF抗原量測定とUL-VWFM解析を行った. ADAMTS13活性は術前値60.84±23.87%と比較して術後有意に低下し,術後7日目には39.01±13.46%まで活性は低下していた(p=0.002).UL-VWFM indexは術前値0.2%(0.0-7.8)から術後7日目に4.2%(0.1-16.3)と有意に増加した(p<0.001).術後UL-VWFM positive群は22例,negative群は7例であった.UL-VWFM positive群においてPringle時間は有意に長く(p=0.001),出血量は有意に多かった(p=0.003).多変量解析では,Pringle時間が術後UL-VWFM出現に関する独立した規定因子であった(p=0.043).さらにUL-VWFM indexは,Pringle時間と正の相関を示した(r=0.444,p=0.017).以上の結果から,ADAMTS13とvWFの均衡破綻が生じることで肝切除後は血小板血栓が形成され易い環境にあることが明らかになった.さらに非常に血小板凝集能の強いとされ,病的血栓の一因となるVWFマルチマーは肝切除において出血制御のため用いられるPringle法との関連が示唆された.
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