研究課題/領域番号 |
16K10587
|
研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
袴田 健一 弘前大学, 医学研究科, 教授 (30271802)
|
研究分担者 |
石戸 圭之輔 弘前大学, 医学研究科, 准教授 (00436023)
工藤 大輔 弘前大学, 医学研究科, 講師 (00587024)
三浦 卓也 弘前大学, 医学研究科, 助教 (30722136)
脇屋 太一 弘前大学, 医学研究科, 助教 (50571246)
木村 憲央 弘前大学, 医学部附属病院, 講師 (60436029)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 4-Methylumbelliferone / pancreatic cancer / extracellular matrix / hyaluronan / CD44 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、膵癌間質組織の主要構成成分であるヒアルロン酸を標的として、ヒアルロン酸合成阻害作用を持つ4-Methylumbelliferone (MU)による新規膵癌治療の開発を目的とし、平成28年度は、当初の研究実施計画に従って(1)膵癌細胞株に対するMUによるヒアルロン酸合成抑制の確認試験、(2)組織レベルでのMUによるヒアルロン酸合成抑制の確認試験、(3)CD44を介した細胞内シグナル伝達への影響に関する検討、を行い、以下の結果を得た。 まず、MUがMIA-paca2, Capan-1等複数の分化度の異なる膵癌細胞株の細胞外マトリックス中ヒアルロン酸量を低下させ、電子顕微鏡観察で細胞外マトリックスの被薄化を確認した。さらに、MUが濃度依存的に腫瘍細胞の増殖速度を抑制することを明らかにした。その作用は細胞壁の破壊による細胞障害作用ではなく、アポトーシスの誘導によることも判明した( Oncol Lett. 2016 ;12:2337-2344.)。 次に、MIA PaCa-2細胞株を用いて増殖能、遊走能、浸潤能を評価し、MUの存在下では、それぞれ26.4%, 14.7%, 22.7%.低下することを示した。さらにMUによるアポトーシス誘導を確認した。これらの変化においてMUはCD44 発現やヒアルロン酸結合能に影響を与えていなかった。さらに膵癌細胞の免疫不全マウスへの移植実験で、MUがヒアルロン酸合成を抑制し、腫瘍移植マウスの生存期間を向上させることが判明した(Pancreas. 2017;46:190-197)。 なお、今年度の成果を踏まえて、MUによる膵癌間質を標的とする新規治療と題するreviewを公開した (Int J Mol Sci. 2017; 9;18(3).
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、当初(1)各種細胞株におけるMUによるヒアルロン酸合成阻害作用の確認、(2)組織レベルでのMUによるヒアルロン酸合成抑制の確認試験、(3)MU投与下の、抗癌剤の膵癌細胞への移行に関する定量試験、(4)間質減少の細胞障害性リンパ球の挙動の変化に関する検討、(5)gemcitabine, nab-paclitaxelとMUとの併用効果に関する検討、(6)CD44を介した細胞内シグナル伝達への影響に関する検討、(7)膵癌幹細胞(CD44発現細胞)の増殖能への影響、MU併用抗癌剤投与による幹細胞制御に関する検討、を主な検討項目とした。現時点で、(1)、(2)、(7)はすでに検討を終えている。 なお、この間一時的に動物実験施設の稼働が停止したものの、現在は復旧し、今後設備環境面で問題はない。進捗状況としては予定通りである。 成果は前述のごとく、3編の英文論文をまとめ、1編は投稿中である。
|
今後の研究の推進方策 |
現在は上記(4)「間質減少の細胞障害性リンパ球の挙動の変化に関する検討」に取り組んでいる。すなわち、細胞外マトリックス内のヒアルロン酸減少が、細胞障害性リンパ球による腫瘍細胞への障害作用がどのように変化するか、検討中である。細胞レベル、組織レベルでの検討を続行する。 CD44がヒアルロン酸を足場として存在することから、ヒアルロン酸の減少により、癌幹細胞への影響や、細胞増殖能に影響を及ぼすことが想定されたが、現時点では、MUはCD44 発現やヒアルロン酸結合能に影響を与えていなかった。CD44を介したMUの生理活性に関しては、今後の継続課題である。 上記(3)MU投与下の、抗癌剤の膵癌細胞への移行に関する定量試験、並びに(5)gemcitabine, nab-paclitaxelとMUとの併用効果、に関する薬理学的な研究、遺伝子改変膵発癌マウスモデルを用いたin vivo研究は、今年度後半から開始の予定。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究費の多くは、研究に用いる消耗品の購入(研究試薬、動物購入等)に充てた。当初の研究計画通りに各研究項目が年度をまたいで行われていること、さらに経費削減と効率的運用に努めたことが理由で、結果的に年度末時点で75,705円が残額となった。
|
次年度使用額の使用計画 |
継続研究テーマの消耗品購入(研究試薬)に充てたい。今後とも経費削減と効率運用を務める。
|