抗糖尿病低分子化合物であるAdipoRonが膵癌細胞株の細胞死を惹起し、動物実験でも抗腫瘍効果を示すことを報告した。糖尿病と膵癌発生には密接な関連があることが示唆されていることから、糖尿病モデルマウスにおけるAdipoRonの抗腫瘍効果を検討した。昨年度、4週令のC57BL/6マウスに60 Kcal%の高脂肪食を給餌させることで作出した前2型糖尿病マウスモデルB6J-DIOにマウス膵臓癌細胞Panc02を同所移植したモデルにおいて、通常食給餌群に比べて有意に腫瘍増殖速度が速いこと、Panc02細胞の細胞増殖に影響を与えない低濃度のAdipoRon(3 mg/kg)の投与により糖尿病の症状の緩和が認められたが腫瘍増殖にはほとんど影響しないことを見出した。これらのことから、肥満の軽減が膵癌の腫瘍増殖抑制に重要であり、そのような状況下では高濃度AdipoRonによる抗腫瘍効果がより発揮されるのではないかと推察された。そこで、DIOマウスにPanc02細胞を同所移植した後に高脂肪食給餌群と低脂肪食給餌群に分け、それぞれの群をさらに対照群と高濃度AdipoRon(30 mg/kg)投与群に分け腫瘍増殖を観察した。その結果、3週間の実験期間中に、高脂肪食給餌群では肥満が維持されたが、低脂肪食給餌群では約16%の体重減少が観察され、有意ではないが腫瘍増殖の遅延が認められた。興味深いことに、AdipoRon投与によって、高脂肪食給餌群においては腫瘍増殖に有意な抑制は認められなかったが、低脂肪食給餌群においては腫瘍増殖抑制傾向が認められた。これらの結果から、Panc02細胞移植DIOモデルマウスでは、肥満の軽減が膵癌の腫瘍増殖抑制さらにはAdipoRonの抗腫瘍効果にとって重要な要因になることが示唆された。
|