研究課題
平成30年度は、強い遊走能・浸潤能を有するp53変異型ヒト膵臓癌細胞株(BxPC-3、Panc-1)と神経性微小環境との関係を検討した。3種類の神経関連因子(ノルエピネフリン(NE)、NGF、GDNF)を処理したところ、BxPC-3細胞はNEに、Panc-1細胞はNGFとGDNFに反応して有意に遊走能が増強した。神経関連因子による遊走能の増強に伴うERKの活性化も確認した。神経関連因子による遊走能・浸潤能の増強に対する2種類の癌特異的増殖型腫瘍融解アデノウイルス(OBP-301、p53誘導性OBP-702)の効果を検討し、OBP-301とp53誘導性OBP-702は有意に遊走能・浸潤能を抑制した。また、ウイルスによる抗腫瘍効果やオートファジーの誘導に一致して腫瘍免疫の活性化を促進する免疫原性細胞死の関連マーカーも上昇した。次に、強い遊走能・浸潤能を有するp53変異型ヒト膵臓癌細胞株(BxPC-3)をマウス皮下に移植した皮下腫瘍モデルを作製し、OBP-301、p53誘導性OBP-702、PBS(溶媒コントロール)を腫瘍内投与して治療効果を比較検討した。OBP-301とp53誘導性OBP-702はPBSに比べて有意に腫瘍増殖を抑制した。次に、p53変異型ヒト膵臓癌細胞株(BxPC-3)をマウス膵臓に移植した膵臓腫瘍モデルを作製し、OBP-301、p53誘導性OBP-702、PBS(溶媒コントロール)を腫瘍内投与して治療効果を比較検討した。p53誘導性OBP-702はPBSに比べて有意に腫瘍増殖を抑制したが、OBP-301は腫瘍増殖を有意に抑制しなかった。以上の研究成果から、p53誘導性OBP-702は神経性微小環境に隣接して強い遊走能・浸潤能を示す膵臓癌に対して強力な抗腫瘍効果や腫瘍免疫の活性化を誘導する新たな治療戦略となる事が示唆された。
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消化器外科
巻: 41 ページ: 931-938