研究課題
膵癌が非常に予後不良な原因に神経浸潤による組織学的非切除と後腹膜再発があり、膵癌の神経浸潤機序の詳細な解明が必要である。近年、神経変性疾患では神経細胞のオートファジーの障害の関与が指摘されている。膵癌においてはオートファジーが発癌を抑制する一方で、確立された膵癌の進展を促進することが知られているが、癌微小環境下における神経細胞のオートファジーの役割は明らかでない。膵癌の神経浸潤における神経細胞のオートファジーを検討するにあたり、まずは膵星細胞のオートファジーの機序に着目した。間質の膵星細胞は癌間質相互作用により膵癌細胞の悪性形質に促進的に働き、その際にオートファジーが関与することを報告してきたが、膵星細胞におけるオートファジー活性化の機序は明らかでなかった。そこで、正常膵星細胞を用いて膵癌細胞が膵星細胞のオートファジーに与える影響を検討した。膵星細胞のオートファジーを誘導することで知られる飢餓条件培養やラパマイシン処理だけでなく、膵癌細胞株の上清添加でも正常膵星細胞のLC3-Ⅱの発現は上昇し、オートファジーの誘導が示唆された。Cell lysateおよび培養上清中のCOL1とfibronectinは、これらの処理により発現が上昇し、膵星細胞のオートファジー亢進は細胞外マトリックスの産生および分泌を促進することが示唆された。活性化膵星細胞のマーカーであるαSMAの発現も上昇し、quiescentな膵星細胞の特徴である細胞質の脂肪滴は減少し、膵星細胞が活性化されたことが示唆された。これまでの結果より、膵癌細胞の培養上清によって正常膵星細胞のオートファジーは亢進し、膵星細胞は活性化へと導かれた。膵癌に隣接する神経細胞と癌細胞の癌間質作用においても類似するオートファジーの役割が存在する可能性がある。
3: やや遅れている
これまでの結果より、膵癌細胞によって正常膵星細胞のオートファジーは亢進し、膵星細胞は活性化へと導かれた。膵星細胞のオートファジーが癌間質相互作用を介して膵癌の成長と転移を促進することや、IL-6分泌を調整し、膵癌細胞の悪性度を高め薬剤送達を物理的に阻害する細胞外基質の産生と分泌に重要な役割を果たしていることが明らかになるなど、オートファジーの機序の解明はすすんでおり、これまでの研究結果を神経細胞に応用し研究を進めていく準備が出来ている。一方、膵癌切除標本における神経細胞のオートファジー活性の解析については、まだ検討が十分に行えておらず、計画はやや遅れている。
癌浸潤部と非浸潤部の神経細胞におけるオートファジーの定量的活性評価およびオートファジー陽性・陰性細胞の網羅的遺伝子・蛋白発現解析を、マイクロダイセクションで細胞を選択的に採取しそのRNA を抽出して、マイクロアレイによる網羅的発現解析で行う。さらに、オートファジーの制御が神経細胞と膵癌細胞の癌間質相互作用に与える影響の検討を、神経成長因子を作用させることで神経突起を伸張し交感神経細胞様に分化することが知られているPC-12細胞と膵癌細胞の共培養実験や、オートファジー抑制剤であるヒドロクロロキンの投与実験で行う。神経細胞をオートファジーレベルにより分類し、それぞれの癌間質相互作用の程度を膵癌細胞との共培養で評価する。
オートファジーの機序の解明はすすんでおり、これまでの研究結果を神経細胞に応用し研究を進めていく準備をしていたが、膵癌切除標本における神経細胞のオートファジー活性の解析などは今後行っていく予定のため。
網羅的遺伝子・蛋白発現解析などのための抗体、培養用器具、培養用試薬、マイクロアレイなど。
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Gastroenterology
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10.1053/j.gastro.2017.01.010