研究課題
本研究の目的は膵癌肝転移形成における肝内局所の血管内皮細胞の機能を明らかにし、血管内皮細胞をターゲットとした新たな膵癌肝転移の制御法を開発することである。現在までに我々は腹膜中皮細胞や膵癌間質の主な細胞成分である膵星細胞が癌の浸潤を先導するleading cellとして機能することを報告してきた。血管内皮細胞は血管新生の際に細胞外基質を分解し間質に遊走することから腹膜中皮細胞や膵星細胞と同様にleading cellとして機能するのではないかと考えた。そこでヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)をレンチウイルスベクターを用いてhTART、SV40を導入することで不死化した。不死化した血管内皮細胞を用いて膵癌細胞との相互作用を解析した。トランスウェルチャンバーを用いたmigration assayでは膵癌細胞との共培養では膵癌細胞の遊走は亢進したことから血管内皮細胞が膵癌の遊走能を増強する可能性が示唆された。血管内皮細胞のleading cellとしての作用に関しては血管内皮細胞と膵癌細胞をゲル内で3D培養することにより血管内皮細胞が膵癌細胞を先導するか様々な条件下で検討を行っている。また、当研究室では通常の3D培養モデルよりもより生体内を反映すると考えられているオルガノイドの樹立に成功している。これまでにこの膵癌オルガノイドモデルで癌関連線維芽細胞と共培養することによる変化を解析してきた。このモデルに血管内皮細胞を加えることで膵癌細胞との相互作用をより生体内に近い環境で観察できると考え、現在解析を行っている。
2: おおむね順調に進展している
我々は既に多くの膵癌細胞株を入手しており、血管内皮細胞に関してはヒト臍帯静脈内皮細胞を入手し、不死化および蛍光タンパクを導入することにより安定的に実験を行うことができる環境を構築した。実際にこれらの細胞を共培養することで血管内皮細胞が膵癌細胞の遊走能を亢進させることを見出した。一方で血管内皮細胞のleading cellとしての機能に関しては現在条件検討中であり、さらに膵癌オルガノイドモデルを用いたより生体内に近い環境での解析を行っている。
膵癌細胞、不死化した血管内皮細胞を用いて血管内皮細胞が膵癌細胞を先導する様子を観察し、その機序に関与するメカニズムを明らかにする。また、当研究室で作成した膵癌オルガノイドモデルを用いてより生体内に近い環境で膵癌細胞と血管内皮細胞の相互作用を検討する。
研究計画はおおむね順調に進展しており、資金を有効に使用できたため。次年度は研究用試薬、器材、抗体などの消耗品、遺伝子改変マウスの作成などに使用する予定である。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (3件)
Cancer Letters
巻: 412 ページ: 143~154
10.1016/j.canlet.2017.10.010