研究課題
本研究の目的は、様々なタンパク質や核酸を含む直径100nm程度の小胞で細胞間の情報伝達を担うエクソゾームに着目し、膵癌自然発生遺伝子改変モデルマウスを用いて、膵前癌病変周囲の間質に由来するエクソゾームを同定・解析して新たな早期診断バイオマーカーを開発することである。膵癌に対する精度の高いスクリーニング検査の開発には、膵癌発症の危険因子ごとに発癌・進展に至る詳細なメカニズムを解明することが必要である。本年度は、膵癌自然発生遺伝子改変モデルマウスを用いて膵癌ハイリスク患者の疑似的モデルとして肥満モデルマウスを作製し、膵発癌、浸潤、転移との関連を解析した。肥満モデルでは、膵周囲脂肪組織の増加とともに有意に腫瘍増大と遠隔転移数の増加を認めた。脂肪細胞由来の培養上清添加により癌細胞の浸潤・遊走能とゲムシタビン抵抗性が増大した。また、脂肪細胞と癌細胞との共培養実験では、脂肪細胞が線維芽細胞様に形態変化を来すとともに培養上清中の脂肪酸が増加し、脂肪酸と癌浸潤、転移との関連を見出した。肥満モデルにおいては脂肪酸が新たな癌間質相互作用の治療標的となり得ることが示唆された。また、膵癌自然発生遺伝子改変モデルマウスを用いて、セルレイン誘導性に膵癌ハイリスクモデルとして膵炎モデルを作製し、膵前癌病変周囲に存在する膵星細胞の樹立を多数行った。さらに、ヒト膵癌切除症例において術前に施行するERCP検査で得られた膵液及び胆汁よりエクソゾームの抽出を行い、電子顕微鏡での観察やタンパク発現により膵癌患者における膵液・胆汁内に存在するエクソゾームを確認した。
2: おおむね順調に進展している
膵癌自然発生遺伝子改変モデルマウスを用いて、膵癌ハイリスク患者の疑似的モデルとして肥満モデル及び慢性膵炎モデルマウスを作製した。肥満モデルでは、膵脂肪組織と膵癌浸潤、転移との関連を解析し、脂肪酸が新たな癌間質相互作用の治療標的となり得ることを明らかにした。慢性膵炎モデルでは膵前癌病変における免疫組織学的な検討を、代表的な細胞外マトリックスの基質であるコラーゲンや活性化膵星細胞のマーカーであるα-SMAを用いて解析した。また、これらの膵癌ハイリスク患者の疑似的モデルである肥満モデルや膵炎モデルの腫瘍や前癌病変周囲組織由来の膵星細胞の樹立を多数行い、現在も樹立を続けている。さらに、ヒト膵癌切除症例において術前に施行するERCP検査で得られた膵液及び胆汁よりエクソゾームの抽出法を確立した。一方、初代培養した膵星細胞の分泌するエクソゾームの抽出や網羅的な解析は行えていない。これまでの研究成果は、膵癌危険因子ごとの膵癌前癌病周囲に存在する間質由来のエクソゾームに着目した新規バイオマーカーの確立につながるものであり、おおむね順調に進展している。
膵癌自然発生遺伝子改変モデルマウスを用いて作製した、膵癌ハイリスク患者の疑似的モデルである肥満、膵炎モデルより、腫瘍や前癌病変周囲に存在する間質由来の膵星細胞の樹立をさらに継続して行う。樹立した膵星細胞の培養上清中からエクソゾームを抽出する。エクソゾームの純度の解析は、NanoSightによるエクソゾーム径の確認やCD9、CD26、CD81のマーカー発現を確認して行う。また、膵前癌病変の周囲間質由来のエクソゾームの網羅的な解析を行い、早期診断バイオマーカーとして有望なタンパクやRNAを同定する。膵癌自然発生遺伝子改変モデルマウスの膵前癌病周囲に存在する間質由来のエクソゾームの抽出がうまくいかない場合は、膵癌自然発生モデルの血液中や、ヒト膵癌切除症例の血液サンプルや術前検査で施行するERCP検査で得られる膵液中よりエクソゾームを抽出する。エクソゾームの網羅的な解析により有望なタンパクやマイクロRNAを同定し、候補となる因子の膵癌手術症例における血液や膵液での発現解析、膵切除標本の免疫組織化学染色による発現解析を行い、バイオマーカーとしての有効性を評価する。
研究計画は順調に進んでおり、資金を有効に使用できたため。
培養用試薬、培養用器具、抗体、エクゾソーム関連試薬、エクゾソーム解析など
すべて 2017
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件)
Oncotarget
巻: 8 ページ: 18280-18295
10.18632/oncotarget.15430.