研究課題
予後不良である膵癌において、早期からリンパ管内に侵入しリンパ組織を循環することが再発の原因となりうるため、リンパ節転移制御は予後を大きく改善させるための重要な課題である。最近Circular chemorepellent-induced defects (CCID) formation という新しい研究手法が行われている。これは、リンパ管内皮をmonolayer に培養した後、Spheroid を形成した癌細胞集団を共培養するもので癌細胞集団がリンパ管内皮を押しのけるように浸潤していく現象である。CCIDのメカニズムを解明することはリンパ節転移のメカニズムを真に理解する上で大きな進歩になると考えたため、この現象に着目して研究を開始した。まずは、実際の切除標本においてSpheroidを形成した細胞集団が存在するか、その局在や大きさなどを観察するために、ヒトの膵癌切除標本の検討を行った。リンパ節辺縁部の被膜下洞に存在する癌細胞の多くは間質増生を伴わずにクラスター形成している状態で多く観察され、原発巣辺縁のリンパ管内にも癌細胞のクラスターが存在していた。次に、in vitroで膵癌細胞がCCIDを起こすことを確認し細胞株毎のCCID形成能を比較検討するために、ヒト膵癌細胞株・膵癌自然発生マウス由来癌細胞株を用いてCCID形成を試みた。2D・3D model両方において、CCID formationをとることを顕微鏡画像により明らかにし、それぞれの細胞株によりこの浸潤形態の形成能に差を認め、癌培養上清添加実験やリンパ管新生因子として多くの報告があるVEGFC添加実験で形成能が上昇した。癌培養上清・VEGFCがCCID形成を制御している可能性が示唆された。リンパ節転移に関わる因子を解明するために、in vivoでfootpadへの皮下移植を用いて高リンパ節転移株を作成している。
2: おおむね順調に進展している
9種類の膵癌細胞株、10種類の膵癌自然発生マウス由来細胞株でのCCID形成能を測定し、2D・3D modelの両方でCCID形成が生じることを確認した。VEGFC添加実験でCCID形成能の亢進を認めている。in vivoで高リンパ節転移株を作成しているため、親株との比較でのマイクロアレイ解析等でVEGFC以外のリンパ節転移に関わる因子の解析も進められる状態にある。
高リンパ節転移株を使用して、親株との比較でのマイクロアレイによるCCID 形成能に関与する遺伝子およびマーカーの同定を進めていく。同定した因子をoverexpression またはknockdown した細胞株でCCID 形成能がどのように変化するかを検討する。また、これらの細胞株がspheroidを形成していないsingle cell の状態でリンパ管内皮細胞や線維芽細胞とどのように相互作用するか観察する。さらに、これらの遺伝子導入(overexpression/knockdown)細胞株をヌードマウスに移植し、リンパ節転移の形成能を検討する。
研究はおおむね順調に進行しており、資金を有効に使用できたため。
培養用器具、培養用試薬、抗体、ヌードマウス費等
すべて 2017
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
Int J Oncol
巻: 50 ページ: 457-467
doi: 10.3892/ijo.2016.3829.