研究実績の概要 |
膵癌は極めて予後不良な難治性癌で、癌細胞の表面には様々な増殖因子受容体が過剰発現していることが報告されている。近年、線維芽細胞増殖因子受容体のfibroblast growth factor receptor-4 (FGFR-4)が、乳癌、卵巣癌、前立腺癌や口腔咽頭癌、胃癌、大腸癌、膵癌などの消化器癌で過剰に発現していることが報告された。さらに前立腺癌、肺癌、頭頚部癌や乳癌では、膜貫通型受容体であるFGFR-4の、膜貫通ドメインに存在するG388RのSNPが予後の増悪と関連しているとの報告もみられている。高齢者に増加する膵癌におけるFGFR-4の発現とSNPの存在、さらにその役割について研究を行なった。 免疫組織化学的検討では、浸潤性膵管癌症例の約50%にFGFR-4の発現がみられ、FGFR-4の発現と腫瘍径、病期に正の相関関係を認めたことから、FGFR-4の発現が膵癌の増殖に重要な役割を果たしていることが明らかとなった。6種類のヒト膵癌培養細胞における、FGFR-1~3の選択的スプライシングバリアントのIIIb, IIIcアイソフォームと、FGFR-4のmRNA発現パターンを定量的RT-PCR法を用いて検討したところ、FGFR-4はFGFR-1~3のIIIb, IIIcとは異なった発現パターンを示していた。これらの膵癌培養細胞においてダイレクトシークエンス法で検討したところ、G388Rの遺伝子変異が半数の細胞株で認められた。FGFR-4の主要なリガンドであるFGF-19は検討した全ての膵癌培養細胞にその発現が認められた。FGFR-4阻害剤を投与することで、膵癌培養細胞の細胞内シグナル伝達が抑制され、細胞増殖能の低下がみられた。これらより、FGFR-4がヒト膵癌の新たな治療標的となる可能性が示唆された。
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