研究課題/領域番号 |
16K10622
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研究機関 | 鈴鹿医療科学大学 |
研究代表者 |
三浦 英和 鈴鹿医療科学大学, 医用工学部, 准教授 (50451894)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 全置換型人工心臓 / 遠心型血液ポンプ / ワンポイント転がり軸受 / 機械寿命 / 血液適合性 |
研究実績の概要 |
インペラの支持及び駆動機構は式血液ポンプの最も重要な技術要素の一つである。現在、臨床で使用されている回転ピボット軸受やピン軸受、動圧軸受け、磁気浮上型軸受ではそれぞれメリットとデメリットがある。回転ピボット軸受やピン軸受では簡便で低コストである反面、摩擦により軸受表面の摩耗によって寿命が限定される。動圧軸受けではミクロンオーダーの高い加工精度が要求されるため高コストである他、隙間が狭いために血栓が生じる問題があり、臨床でも少なくない有害事象が報告されている。磁気浮上軸受を用いた血液ポンプでは浮上用コイルとその駆動回路や距離を測定するセンサーが必要で、複雑で高コスト、故障の可能性が高いシステムと言える。他方、医療費の高騰が問題とされる昨今、医療経済的許容されうるコストで血液適合性と機械寿命といった性能をバランスよく満たす人工心臓が望まれている。そこで本研究ではワンポイント転がり軸受を用いた新しい遠心血液ポンプを提案し研究開発を行ってきた。本軸受では外輪に収められた複数個の公転球の上にピン状の回転軸を乗せ、電磁石と磁石の吸引力により一点に拘束される。本軸受の溶血との関係を明らかにするため、まず軸受設計論に基づく溶血発生メカニズムを検討した。公転球は軸受面と接触し、この接点の付近では狭い間隙の領域がひろがる。血球が破壊される数um程度の間隙値の領域をできるだけ少なくすることを考えると、公転球半径と軸受面の曲率半径の比は大きい方が良い。また、この領域の回転によって移動することで血球はより破壊されていくため、公転半径、回転数、公転球の数に比例して血球の破壊が起こると推測された。血球の破壊は物理的な要素だけではなく、熱やシェアストレスへの継続的な暴露によっても変化する。試作段階ではインペラの揺動が観察されており、これに伴い溶血が亢進することも予想された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現在の所属大学の移動に伴い、研究環境について大きな変化があったことも影響としてあるが本研究の軸受は保持具を持たない転がり軸受を構築するものであり機械工学的にもハードルが高いものあることが明確になった。これを具現がするためのいくつかのアイディアについて検討を始めており、本研究が保持具の軸受機構が実現できれば、人工心臓のみならず産業界全体にとって省エネルギー性や高耐久性をもたらす革新的技術となりうる。
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今後の研究の推進方策 |
転がり軸受の一般的な問題として公転球同士の衝突があり、保持具という公転球同士の距離を一定に保つ部品が使用される。しかし、保持具は摩擦抵抗を増加させ、血液ポンプでの使用を考えると血栓と溶血という根本問題に直面する。公転球を自律分散させる試みがあり本研究でも血液ポンプにおいて自律分散の実現を目指す。本軸受の溶血との関係を明らかにするため、まず軸受設計論に基づく溶血発生メカニズムを検討した結果、血球が破壊される狭間隙値の領域をできるだけ小さくするため、公転球半径と軸受面の曲率半径の比は大きい方が良い。また、公転半径、回転数、公転球の数に比例して血球の破壊が起こると推測された。血球の破壊は物理的な要素だけではなく、熱やシェアストレスへの継続的な暴露によっても変化する。試作段階ではインペラの揺動が観察されており、これに伴い溶血が亢進することも予想できるため、インペラの前後に2つのベアリングを配置することも検討すべきである。これによって回転を安定させるとともに1ベアリング当たりの公転球の数を削減する。新規の軸受システムにおいては駆動部やインペラの影響を一度切り分けて研究開発を進めることが望ましい。そこで先に述べたベアリングシステムに誘導機の原理を応用した簡素的な駆動システムを組み合わせて、試験機を作成し、ベアリング挙動と溶血特性の評価を行う。その後、永久磁石モータの駆動部とインペラを組み合わせ、血液ポンプとして圧―流量特性、溶血性能の最終評価を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
数値制御加工機の更新が必要となり、当該年度中の購入を検討していたが要求仕様を満たす機械が見つからず、年度末に間に合に合わなかったため。
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