研究課題
(研究の目的)致命的な心臓外科術後合併症(各種臓器虚血、再灌流障害、感染症、敗血症)に対し、全身炎症における標的タンパクとして知られるHigh Mobility Group Box-1 (HMGB1)を対象とした薬剤の抽出およびその有効性効果確認、安全性評価を行うことが本研究の目的である。(研究の成果)前年度までに、HMGB1を標的として全身炎症抑制や局所臓器障害抑制効果を示しているヒト遺伝子組み換えトロンボモジュリンを、我々がすでに確立しているラット人工心肺モデルに使用し、炎症抑制効果を確認した(Hirao, J Thorac Cardiovasc Surg 2017)。また、ヒト遺伝子組み換えトロンボモジュリンには、炎症を抑制するドメインと、抗凝固作用を有するドメインが別途存在することが知られている。そのため、凝固系に影響を及ぼすことなく抗炎症作用を得るための戦略として、抗炎症ドメインのみの使用で抗炎症作用を同様に得られるかを、ラット人工心肺モデルを使用して検討した。その結果、抗凝固および抗炎症作用の両者を含むフルドメインのトロンボモジュリンの投与において、人工心肺中の活性化凝固時間が過度に延長するのに対し、抗炎症ドメインのみの投与では、その過度の延長が抑えられることが示された。また抗炎症に関しては、フルドメインと抗炎症ドメインの両者において、HMGB1の産生抑制傾向と肺組織障害抑制が示された。これらの結果から、トロンボモジュリンの抗炎症ドメインみの選択的使用が、凝固系に悪影響を及ぼさない、新たなHMGB1抑制を介した心臓血管外科手術における炎症性合併症予防法として有用である可能性が示された。
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