研究課題/領域番号 |
16K10639
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
森田 紀代造 東京慈恵会医科大学, 医学部, 教授 (70174422)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 刺激伝導系 / 可視化 / 房室ブロック / 組織密度 |
研究実績の概要 |
SPring8において構築した位相差CTイメージングは非破壊的でありさらに造影剤などの検体への操作をすることなく、筋線維、血管系など心臓内の微細構築画像が得られ、先天性心疾患心標本の構造解析に極めて有用なツールである。 位相差CTによりヒト正常心臓4標本における刺激伝導系を描出した。撮影後の標本の病理学的検討との対比により位相差CTで刺激伝導系は房室結節から貫通束、分岐束、左脚、右脚のいずれの部位においても従来の連続切片上の病理組織所見と一致するserially traceable なlow density areaとして識別可能であることが示された。 本法は非破壊性、正確性、立体構築画像の外科手術における重要度などの点で極めて有用な刺激伝導系可視化の方法であることが示された。 密度分解能を有する位相差CT画像のCT値からもとめた刺激伝導系と周辺組織を含めた領域の組織密度解析の結果から刺激伝導系と通常心筋との間に存在する線維組織の鞘と間で水の1/100のオーダーで有意な密度差を認めた。 位相差CTでは房室間刺激伝導路を非破壊的なバーチャルの連続切片で観察できるうえ用手的にラベルした刺激伝導系データをvolume renderingした心臓に投影した3D画像上で、心臓手術における視野を想定した自由な方向から自由な角度で内部を切開しての詳細な把握が可能であることを、正常心に加え典型的心疾患である心室中隔欠損症の各病型、さらに特殊な走行を示す修正大血管転位症、無脾症などの複雑先天性心疾患において示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度までにホルマリン固定された正常心4検体を含む剖検心標本25検体の位相差CT撮影を実施した。すべての位相差CT画像解析において刺激伝導系は周囲を高濃度の線維組織により境される低濃度域として認識することが可能であり、この所見は固定期間、疾患、年齢(子宮内胎児死亡~1才)によらなかった。これよりタルボ干渉計を用いて大型放射光施設SPring8に構築した位相差CT装置、生食浸透などの撮影手法を含む本研究手法は小児例剖検心標本の刺激伝導系形態解析法として確立されたものと考えられ、研究期間内に明らかにすべき一つ目の課題を達成したといえる。 さらに正常心4例において可視化が可能でありこれまでの病理学的知見とも一致していることが示されており、今後の解析対象である先天性疾患心との比較対照となる位相差CT3次元データが確立された。
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今後の研究の推進方策 |
現在国内の施設に保管されている先天性心疾患心臓標本の劣化・保守管理上の問題による廃棄が進んでおり、さらに希少疾患標本には教育目的で保存されているものも多く、本手法はこのような標本に対しても応用可能でありさらにバーチャルな3Dデジタル標本として後世に残す意義も大きい。 今後の研究計画として、国内の剖検心標本に対象を拡大し、正常心臓、手術数の多い先天性心疾患、希少な先天性心疾患に対して位相差CT画像を撮像し、教育的利用可能な広く公表された立体画像コンテンツ作成を提案したい。 [1]刺激伝導系を有する心臓3D プリントモデル 2016年現在、国内小児心臓外科医を中心に手術トレーニング、シュミレーションを含む術前検討などの目的に先天性心疾患3Dプリントモデルが用いられるようになっている。そこで位相差CT画像から刺激伝導系を配置させた正常心ならびに各疾患のレプリカモデルを作成することにより刺激伝導系の立体的走行の把握が必須となる心臓外科医、さらに医学をはじめ心臓の解剖を学ぶ幅広い層の人たちにこれまでにない教育効果をもたらすことが可能となる。疾患としては心室中隔欠損症、房室中隔欠損症、修正大血管転位症などが想定されている。 [2]特定の疾患における刺激伝導解剖の研究 これまでの病理組織学検索による知見により、房室ブロック予防に必要な貫通束の走行距離に関する一定の見解は得られていない疾患が現状で多く存在する。このような疾患に対し標本を一定数以上用いて走行異常の解剖学的特徴を明らかにしたい。対象疾患として房室中隔欠損症(完全型、不完全型、中間型)、心房錯位症候群(無脾症、多脾症)、単心室(とくに両房室弁左室挿入)などが挙げられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
国内学会での発表回数は十分と考えているが当該年度は開催地が東京の学会が多く旅費があまりかからなかったこと、画像解析業者への謝金の支払い請求処理に必要な業務委託契約締結に時間を要してしまったため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は遠隔地を含む学会開催が増えること、対象標本が増えていることから研究テーマごとの多施設での会議が多く必要となること、画像解析の委託契約が締結に至ったことより、謝金請求が行われていくことなどから、本来の所要額に近い使用計画となると考えられる。
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