研究実績の概要 |
【目的】弓部大動脈瘤の術後合併症としての脳梗塞は重要である。その原因の一つとして下行大動脈のプラークによる逆行性脳塞栓がある。術前のCTにより下行大動脈の大動脈プラークを評価することは重要であるが、その性状を評価することは困難である。もし、大動脈プラークの性状を評価するバイオマーカがあれば周術期管理に有用であるが、未だ十分検討されていない。シスタチンCは腎機能障害の指標として有用であるが、近年、冠動脈や頸動脈の動脈硬化を表す指標として注目されている。今回我々は弓部大動脈瘤症例においてシスタチンCが下行大動脈のプラークのバイオマーカーになり得るかを検討した。【対象および方法】弓部大動脈瘤75例を対象とした。eGFRによりCKD群48例と非CKD群27例に分類した。下行大動脈のプラーク体積およびその成分(soft, intermediate, hard)別体積をAquarius iNtuition Viewerを用いて計測した。プラーク体積と術前血清シスタチンC値、クレアチニン値との相関性を比較した。【結果】1.softプラークの体積はCKD群で有意に高値であった。2.CKD群、非CKD群のいずれにおいてもシスタチンC値はsoft plaque体積と有意な正の相関関係を認めた。3.クレアチニン値はプラーク体積および成分別体積と相関関係を認めなかった。4. 非CKD群においてシスタチン高値群11例と正常群16例で比較したところ高値群でsoftプラーク体積が有意に高値であった。【考察】シスタチンCによる下行大動脈のsoftプラーク体積増加の機序として1.腎機能障害を反映した結果によるもの、および、2.シスタチンCの直接作用の両方が考えられる。いずれにせよ、シスタチンCは弓部大動脈瘤症例において下行大動脈のプラーク体積に対するバイオマーカーになり得ることが示された。
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