研究課題
急性大動脈解離(AAD)は致死率の高い循環器救急疾患であり、年齢などが危険因子として知られているが、これまで適切な動物モデルがなかったことから発症機序の研究が進んでいない。我々はコラーゲン・エラスチンの架橋酵素であるlysyl oxidaseの阻害剤BAPNを幼弱マウスに慢性投与してからAngiotensin IIの短期投与を行うことで100%の確率でAADを発症する新たなAAD動物モデルの確立に成功した。このマウスモデルの病理学的解析の結果、解離血管では細胞老化の代表的マーカーであるp16やgH2Xの発現の亢進が見られた。細胞老化ではSASP(senescence-associated secretory phenotype)獲得に伴い向炎症傾向を示すが、このSASPに合致して解離血管ではMMP9やIL6の発現の上昇も見られた。最近の研究からSASPの獲得にJAKシグナリングの関与が示唆されているが、AADマウス解離血管ではJAK2リン酸化の亢進が見られた。そこでAADの発症に細胞老化が関与するかどうかの検討として1.遺伝学的細胞老化阻害モデル(p16ノックアウトマウス、p21ノックアウトマウス)、2.細胞老化阻害剤(senolytics)投与モデル (Dasatinib、Quercetin投与)、3.SASPシグナリング阻害剤投与モデル(ruxolitinib投与)にAADを作成し発症率の解析を行った。その結果、AAD発症率はp16ノックアウトマウスでは62.5%、senolytics投与群では58.3%、ruxolitinib投与群では 53.3%といずれもコントロール群に比べて低下しており、特にp21ノックアウトマウスではAAD発症率は33.3%まで抑制された。以上から急性大動脈解離の病態においてp21を中心とした細胞老化が発症機序に関与する可能性が示唆された。
すべて 2019
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (1件)
FASEB J.
巻: 2019 ページ: 2610-2620
10.1096/fj.201801401R
J Eval Clin Pract
巻: Epub ページ: Epub
10.1111/jep.13138