研究課題/領域番号 |
16K10669
|
研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
平方 佐季 久留米大学, 医学部, 助教 (60597425)
|
研究分担者 |
田中 啓之 久留米大学, 医学部, 教授 (70197466)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 大動脈解離 / 血管 / 分子生物学 |
研究実績の概要 |
大動脈解離は致命的な疾患であるが、病態は解明されておらず、手術以外の内科的治療や病態を評価するバイオマーカーもない。解離組織ではIL-6が高発現し、その下流のSTAT3が血管平滑筋細胞およびマクロファージで活性化しているが役割は不明である。コラーゲン架橋酵素阻害薬とアンジオテンシンIIの2週間投与で解離が発症・進行するモデルを開発し、平滑筋特異的なSTAT3応答抑制マウス(smStat3KO)及びSTAT3応答亢進マウス(smSocs3KO)を用いてモデルを作成し研究を進めてきたが、平滑筋STAT3応答亢進マウスでは、外膜の細胞増殖、コラーゲン線維および強度が増加し、解離が抑制された。逆にSTAT3抑制マウスでは解離が促進された。マクロファージ特異的なSTAT3応答亢進マウスでは、炎症促進性のM1分化が誘導され解離が促進されることを発見した。以上から、平滑筋細胞STAT3活性化は破壊阻止、マクロファージSTAT3活性化は破壊促進という相反する機能を担うことが明らかになり、平滑筋STAT3による外膜強化・大動脈保護機構を解明することで大動脈解離発症後の組織破壊を阻止できる可能性に着目した。解離における外膜強化を①STAT3活性化、②外膜細胞増殖、③ECM形成促進に分けて解明し、解離進行阻止療法の開発に挑戦し、これらに基づく病態モニタリング法を検証することを本研究の目的とした。 まずは包括的なネットワーク解析を行い、これまでに得た知見と考え合わせることで、平滑筋Stat3活性化は持続する軽度の炎症により組織強度を向上させ、解離刺激への耐性を獲得していると考えられた。そのためsmSocs3KOマウスの大動脈では解離刺激に対する初期応答は強く抑制され、解離への進展が抑制されているという、外膜強化・大動脈保護機構を解明するにあたってさらに深みをますことのできる知見を得ることができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マウス解離モデルにおいて、発症に先立って起こる1221遺伝子の発現変化に基づき、トランスクリプトーム解析データからベイジアンネットワーク理論による発現制御ネットワークを同定した。ネットワーク解析から、細胞増殖、炎症関連、細胞遊走、筋細胞分化、低酸素応答に関わる遺伝子群が密接に関連して制御される発現制御クラスターを形成していることが明らかになった。更に発現制御クラスター同士が相互に関連することを見出した。 解離刺激は初期には細胞周期関連の発現クラスターを活性化させ、次いで炎症関連発現制御クラスターの活性化と細胞遊走、筋細胞分化に関わるクラスターの抑制を引き起こした。平滑筋STAT3応答亢進マウスでは、解離刺激前から炎症関連クラスターの発現がわずかに亢進していた。解離刺激後には平滑筋STAT3応答亢進マウスは野生型と比較して、より強い炎症関連クラスターの活性化を認めた。興味深いことに、smSocs3KOでは刺激後の早期応答である細胞増殖応答は強く抑制されていた。 これらのネットワーク解析から、smSocs3KOでは無刺激でも軽度の炎症応答が持続している一方で、解離刺激後の早期応答である増殖応答は強く抑制されていることが示された。これまでに申請者が得た知見と考え合わせると、平滑筋Stat3活性化は持続する軽度の炎症により組織強度が向上しており、解離刺激への耐性を獲得していると考えられた。そのため、smSocs3KOマウスの大動脈では解離刺激に対する初期応答は強く抑制されており、解離への進展が抑制されていることが示唆された。 平滑筋STAT3活性化は破壊阻止に働くというこれまでの知見を補強する結果であり、解離発症後の組織破壊を阻止できる可能性にさらに近づく知見を得たことで、進行阻止療法の開発、これらに基づく病態モニタリング法の検証という本研究の目的の達成に向けて更なる解明が必要である。
|
今後の研究の推進方策 |
引き続き、平滑筋細胞を中心に、外膜及び細胞外マトリックスに着目した詳細な解析を進めていくことで、外膜強化応答発動、外膜細胞増殖、ECM増加を中心とした、平滑筋STAT3による外膜強化・大動脈保護機構を解き明かし、大動脈壁破壊を阻止する画期的な治療法開発を目指す。また、これらに基づく病態モニタリング法を検証する。 具体的には、遺伝子レベルのみならず、タンパク定量及び免疫染色などを用いることで、より詳細なメカニズムの解明を目指し、治療法の開発、バイオマーカーの開発へとつないでいくことを目標とする。申請者らは、チロシンキナーゼ阻害薬ゲフィチニブが解離モデルの増殖応答を強く抑制することを確認しており、それを用いることで解離進展への効果を検証する。また、トランスクリプトーム解析の結果をもとに、モニタリングに応用できるより具体的な分子を同定する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
初年度で十分な手技を確立できたことで、実験回数を減らすことができ、使用する試薬などの節約が可能であったためと考える。
|
次年度使用額の使用計画 |
研究を今後さらに進展させる上で、マウスの購入や飼育費、組織培養試薬や生化学実験の消耗品費用及び人件費として使用する。
|