研究実績の概要 |
ⅰ)新規樹立肺癌細胞株(KU-Lu-MPPt3)の遺伝子およびタンパク発現の検索:本研究については,既存のMPPを有する肺癌組織からの網羅的タンパク解析によって得られた,遺伝子ならびに関連タンパク質のプロファイルから,腫瘍の悪性度や浸潤形式に寄与する因子を確認した.しかし,Wnt5a-Ror2シグナル,Ror1シグナルとCOX-2/ prostaglandin E2 receptor EP3 シグナリングを活性化する可能性のあるものが明らかでなかったため,下記iii)を先行し,そのデータに基づいてある程度絞り込んだ候補遺伝子・タンパクを解析する方針とした. ii) 肺ならびにリンパ節転移モデルの作成:NOD/SCIDマウスの肺実質に MPP 細胞株(KU-Lu-MPPt3)を移植し,肺内転移ならびに肺の所属リンパ節転移の形成モデルを作成する実験を開始したが,転移形成モデルの確立には至っていない. iii) Wnt5a-Ror2,Ror1シグナルの検索 :MPP細胞株 (KU-Lu-MPPt3)およびNMPP細胞株について,近年浸潤・転移能との関連が示されているWnt5a,Ror1,Ror2の発現レベルを解析するために,現在RNAを抽出しcDNA作成を行っている.限られた細胞株なので,既市販の肺癌細胞株を用いた予備実験を行った.なお,本研究遂行のための本学と神戸大学間の協定締結(秘密保持契約、共同研究契約、研究試料提供契約)に時間を要している.
|
今後の研究の推進方策 |
i) 肺ならびにリンパ節転移モデルの作成:引き続き,NOD/SCIDマウスの尾静脈ならびに肺実質にKU-Lu-MPPt3細胞株を移植し,肺内転移ならびに肺の所属リンパ節転移の形成モデルを作成する. ii) Wnt5a-Ror2,Ror1シグナルの検索:当科でKU-Lu-MPPt3細胞株よりRNAを抽出しcDNAを作成する.それを用いて神戸大学においてWnt5a-Ror2シグナルの発現レベルを解析する.下流のシグナル伝達分子の解析については,細胞株より抽出したタンパク質抽出液を神戸大学で解析する.この場合,活性を評価する際には,siRNAによるノックダウンを行った細胞株からの抽出液を用いて評価する予定である.Wnt5a-Ror2シグナル,Ror1シグナルの活性化が検出された場合には,MMPsの発現誘導や浸潤能の亢進が想定されるため,qRT-PCR法,ELISA法によるMMPsの発現解析やマトリジェル浸潤能アッセイ,semi-3D浸潤能アッセイなどによる浸潤能の測定を行い.また,Wnt5,Ror2またはRor1の発現をsiRNAにより阻害し,Wnt5a-Ror2シグナル,Ror1シグナルのMMPsの発現誘導や浸潤能における寄与のvalidationを行う. ⅰii)発現量の異なる遺伝子群またはタンパク質群の評価:絞り込めたMPP 特異的発現遺伝子あるいはタンパクの validation を行う.具体的には,動物転移モデルを用いて候補遺伝子・タンパクを各々数個まで絞り込む.バイオマーカー候補タンパク質に対する特異的抗体が市販されている場合は購入し,市販されていない場合はモノクローナル抗体を作製する.それらの抗体を用いて MPPの原発巣と転移巣および 対照となる肺腺癌組織の免疫染色を行う.これら抗体の染色性から MPP 部位に特異的に染色されるか,MPP 部位のみではないが MPP 腺癌組織に染色されるか等の検討を行い,候補抗体を選出する.
上記で期待される結果が得られた場合には,ウェスタンブロッティングによる抗原抗体反応の確認とWnt5a-Ror2シグナルとがん浸潤の解析に移行する.
|
次年度使用額の使用計画 |
転移モデル作成のためのマウス,シグナル解析に用いる核酸の抽出,合成試薬およびPCR関連試薬,タンパク解析に用いる抽出試薬および消耗品,ELISA,浸潤能アッセイ等のキット,その他培養試薬,プラスチック製品などを購入する.
|