研究実績の概要 |
原発性肺癌の中では腺癌の頻度が最も高いが,中でも微小乳頭状(micropapillaryパターン)を呈する腺癌(MPA)は,早期でもリンパ節転移を来しやすく予後不良である.申請者らは2018年度に, 申請者らが樹立したMPAの新規細胞株(KU-Lu-MPPt3)を用いて,遺伝子およびタンパク発現の検索を行った.本細胞株は,dishに付着して増殖し,そこから遊離して浮遊する小細胞塊を形成するという特徴を有している.そこで, KU-Lu-MPPt3細胞の浮遊細胞とDish付着細胞からなる形態の異なる細胞をそれぞれ単離培養し,網羅的発現解析によって両者での発現に差のある遺伝子の絞り込みを行った.その結果, 幹細胞性に関わるHOPX, ST6GalNac1,転移開始細胞の転移能に関わる脂肪酸受容体,血管新生や細胞増殖に関わる遺伝子の他,遺伝子プロモーター領域の高メチル化による発現低下が癌の増殖に関わるTumor suppressor genesが候補として挙げられた.このように今後の,遊離形態形成に関与する遺伝子やタンパクの解明につながる結果が得られた. さらに,KU-Lu-MPPt3細胞において,Wnt5aの受容体として機能するRor1受容体型チロシンキナーゼが高発現していることを見出した. Ror1は肺腺癌を含む様々な悪性腫瘍において高発現し,腫瘍細胞の生存や増殖・進展に関与しているが,その分子機構については不明な点が多いことから,Ror1の機能を解析することに加え,今後はMPA構造を規定する候補pathwayの絞り込みを行うことで,MPAの浸潤機構を明らかにしていく予定である. 尚、本研究の成果の一つとして,「微乳頭構造を有する肺腺癌細胞株用培地及びその利用」の特許権を取得した.(特許第6472084号)
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