研究課題/領域番号 |
16K10690
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研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
田中 良太 杏林大学, 医学部, 講師 (40415063)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 肺腺癌 / 細胞診 / Liquid Based Cytology / 上皮成長因子受容体 |
研究実績の概要 |
本研究では気管支鏡下肺腫瘍生検の際に用いた、鉗子先端を洗浄しえられた細胞材料を利用する。生食入りの15mlで鉗子先端を出し入れして洗浄し、遠心分離機にかけたのちBD シュアパスレッド保存液で固定する。現在までに採取した器具洗浄液は24検体で、同時に採取した血清材料も保存している。予備実験として肺癌手術材料の腫瘍割面の擦過によりえられた細胞材料を用いて、目的とする遺伝子や免疫組織化学的な解析を施行した。病理学的に腺癌と診断された40検体を対象として、EGFR遺伝子変異を解析し陽性が20検体(50%)であった。EGFR変異が陰性の20検体を対象として、KRAS遺伝子変異解析を施行し陽性が4検体(10%)であった。LBC固定後のサンプルは細胞浮遊液ゼリー化試薬(iPGell)を用いて、固形状にしてセルブロックを作成した。EGFR・KRAS変異陰性例を対象として、EML4-ALK融合遺伝子解析のため、免疫染色とfluorescence in situ hybridization (FISH)を施行し1検体が陽性であった。また更にEGFR・KRAS変異陰性例、EML4-ALK陰性例を対象に、ROS1融合遺伝子解析を施行し1検体が陽性であった。上記の結果からLBC固定検体や、それから作成したセルブロック標本を用いて、各種コンパニオン診断薬による解析は可能であり、過去の文献的な報告とくらべ遜色がない結果となった。術前に気管支鏡を施行していたEGFR変異陽性2例を対象とし、同様に作成したセルブロック標本を用いてEGFR変異解析を施行した。腫瘍細胞数が一切片あたり数個と極めて少数であるものの、擦過検体でえられた変異と同様に変異が検出された。本研究によって最善で効率的な細胞回収と検体処理法を提示することは、肺癌コンパニオン診断の精度を高める一助になるとことと期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
肺癌手術材料の腫瘍割面の擦過によりえられた細胞材料を用いて予備実験を開始した(73検体)。擦過材料は1検体あたり3本の遠心管に振り分けLBC保存液で固定した。そのうちの1本は細胞浮遊液ゼリー化試薬(iPGell)を混ぜた後にセルブロックを作成し、もう1本からは遺伝子解析のためにDNAを抽出した。組織型の鑑別に関連する腺癌系マーカーとしてTTF-1とNapsin A、扁平上皮癌系マーカーとしてCK5/6とP40の免疫組織学的解析を施行した。iPGellに埋め作成したセルブロックでも良好な染色性を示し、形態学的および免疫組織化学的な評価が可能であった。LBC固定液からDNAを抽出した55検体のうち、組織学的に腺癌と診断された40検体を対象として、EGFR遺伝子変異を解析し20検体が陽性であった。その後EGFR変異が陰性20検体を対象として、KRAS遺伝子変異を解析し4検体(10%)が陽性であった。EGFR・KRAS変異陰性例を対象とし、EML4-ALK融合遺伝子を免疫染色とFISHにより解析し1検体(2.5%)が陽性であった。また更にEGFR・KRAS変異およびEML4-ALK陰性例を対象に、ROS1融合遺伝子解析(AmoyDX)を施行し1検体(2.5%)が陽性であった。LBC固定検体やその固定後のセルブロックを用いて、各種コンパニオン診断薬の使用を試みたところ、過去の報告とくらべ遜色がない結果がえられた。上述のEGFR変異陽性20検体中2例において、術前気管支鏡で採取し保存していたLBC固定材料を用いて、同様にEGFR変異解析(コバスver.2)を施行した。腫瘍細胞数が一切片あたり数個と極めて少量であるにも関わらず、擦過検体でえられた変異と同様の変異が検出された。また同時にその2例の血漿による変異解析では、1例のみが陽性で細胞材料での有用性を示唆した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終目標である気管支鏡下生検の際の生検鉗子の器具洗浄からえられた細胞材料を用いて、順次高感度法によるEGFR遺伝子変異とKRAS遺伝子変異の解析を施行する。細胞数が少数で低いDNA濃度でも解析が可能なことが分かってきたため、サンプルの腫瘍細胞数やDNA濃度を測定し数値化して客観的に評価する。またEGFR変異解析では同時に採取した血漿の解析も行い、細胞材料の変異解析によりえられた結果との一致率を評価する。いずれの検体もほぼ同時に採取しているため解析結果は、Liquid biopsyの精度評価につながるものと期待している。器具洗浄液の細胞材料においてもEML4-ALK融合遺伝子の検索のため、セルブロックを用いて免疫染色とFISHを施行する予定である。しかしながらFISHの判定の際は細胞の数の絶対数が50個以上必要であり、免疫染色およびRT-PCR、あるいはNext-Generation Sequencing(NGS)での解析を視野に今後更に検討する。また各種遺伝子解析では腺癌を対象とした検討になるが、扁平上皮癌を含むすべての組織型を対象とした解析を行い、抗PD-L1抗体を用いた免疫組織学的な解析も視野に入れている。その際は同時にえられた組織検体での発現も評価して、細胞材料と組織材料との発現の一致率を解析して検討する。細胞浮遊液ゼリー化試薬(iPGell)に埋めて簡便かつ容易に作成されたセルブロック標本で、抗PD-L1抗体の発現の評価が可能になれば、今後気管支鏡でえられた細胞検体をもとに免疫チェックポイント阻害剤の適応を、迅速かつ効率的に見極める一つの選択肢を提供するものと考える。最終的には細胞材料を用いた各種コンパニオン診断薬等の解析が、臨床的に信頼性を担保するものであるかを明らかにする。そしてえられた結果が今後の個別化医療の更なる発展と効率化に寄与するものと考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 当該年度の研究計画を実行して、予算範囲内の研究費を執行してきたが、当初の予定額より若干の試薬類を、比較的に安価に購入することができた。そのため若干の次年度使用額(B-A)36,897円が生じている。 (使用計画) この次年度の使用額に関しては、本研究の中で必要とされる細胞材料の染色液、またLBC固定液やiPGellの購入等にあてる予定である。
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