研究課題
本課題の目的は、喫煙歴、ドライバー遺伝子変異の有無、PD-1やPD-L1の発現、Microsatellite instability (MSI)など、過去の報告から想定される免疫チェックポイント阻害薬の治療効果予測因子について包括的に解析を行って、相互の関連を明らかにするとともに、肺腺癌における免疫チェックポイント阻害薬の至適治療選択規準を確立することである。本年度は、MSIについて肺腺癌切除例341例を対象に解析を行った。341例にはドライバー遺伝子異常陽性例141例(EGFR 50例、KRAS 50例、ALK 21例、ROS1 10例、RET 10例)とドライバー遺伝子異常陰性例200例(重喫煙者100例、非喫煙・軽喫煙者100例)が含まれている。過去の報告では肺癌におけるMSIの頻度については、研究ごとに異なるMicrosatellite markerが用いられていたため、これまで一定の見解が得られていなかった。そこで、本研究ではLynch症候群の日常診断に用いられているPromega panelを用いてMSIの解析を行った。MSIは341例中1例 (0.3%)のみに認められた。同症例は64歳、男性の重喫煙者で、腫瘍にはドライバー遺伝子変異が認められず、WESでMLH1の点突然変異が検出された。smoking (C>A)とDNA MMR deficiency (C>T)のmutation signatureの変異数が多かった。免疫染色では腫瘍細胞は、MLH1、PD-L1ともに陰性であった。MSIは肺腺癌においては希な異常であり、免疫チェックポイント阻害薬のバイオマーカーとしての有用性は低いことが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り順調に経過し、本年度の成果については国内外の学会で発表し、英文雑誌に投稿した(Lung Cancer, in revise)。
さらに症例を増やし腺癌1000例、扁平上皮癌300例を対象に、以下の解析を行う予定である。(1)ドライバー遺伝子異常を有する非小細胞肺癌における下流分子の発現とPD-L1の発現との相関。CAGE法は遺伝子の転写開始点をゲノムワイドに同定しその活性を定量できる。この手法を用いて、ドライバー遺伝子の下流分子とPD-L1のRNAレベルでの発現を解析し、これらの相関について検討する。(2)腫瘍組織局所免疫状態の評価。上記と同じ症例の腫瘍切除標本のホルマリン固定標本から作成した組織マイクロアレイを用いて、リンパ球表面マーカ(CD4、CD8、 CD25等)やリンパ球転写因子(FoxP3、 Gata3、Tbet、RORgt),チェックポイント関連蛋白(CTLA-4、PD-1、PD-L1等)、 マクロファージマーカー(CD68、 CD204等)、さらには癌細胞の形質発現(MLH1、MSH2、HLA class I等)について免疫染色を行って、腫瘍組織局所免疫状態を評価する。
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BMC CANCER
巻: 16 ページ: 760
10.1186/s12885-016-2792-1