研究課題/領域番号 |
16K10696
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研究機関 | 川崎医科大学 |
研究代表者 |
沖田 理貴 川崎医科大学, 医学部, 講師 (90467762)
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研究分担者 |
中田 昌男 川崎医科大学, 医学部, 教授 (30368641)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 非小細胞肺癌 / PD-L1 / EGFR / HER2 / 免疫逃避 / NKG2Dリガンド |
研究実績の概要 |
非小細胞肺癌に対するPD-1/PD-L1を標的とした免疫チェックポイント阻害剤の有効性が明らかとなる一方、その効果予測因子や耐性克服法は未解明であり、進行癌の治癒を目指すうえでの重大なテーマである。本研究では非小細胞肺癌におけるEGF family シグナル(特にEGFR, HER2, HER3)の免疫逃避への影響について、NK細胞活性化リガンドULBP1-6とT細胞不活化リガンドPD-L1を中心に、その発現制御機構ならびに臨床病理学的因子との関連性について研究を行う。 H28年度は、非小細胞肺癌切除例において、PD-L1過剰発現が予後不良予測因子であることに加えて、PD-L1発現量がEGFR発現量とは正の相関、一方HER2発現量とは負の相関を示すことを新たに見出し、さらに細胞株を用いたin vitro実験でもEGFRとHER2それぞれのsiRNA法による発現抑制でEGF刺激に対する反応が異なることから、同じEGF family受容体の中でも、EGFRとHER2ではPD-L1発現に与える影響が異なるとの結論に至り、研究成果を英文原著論文として報告した(Okita R, et al. Cancer Immunol Immunother 2017)。さらにEGFR, HER3のリガンド刺激がPD-L1の発現に及ぼす影響についても解析を終えた。PD-L1については元来IFN-gで発現が増強することが既知だが、IFN-g刺激とEGFRやHER3刺激との、PD-L1発現制御機構に違いについても明らかにしたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
手術標本を用いた免疫染色と臨床病理学的因子との関連性の検討は、EGFR, HER2, PD-L1の発現解析について、関連性を含めてすでに英文原著論文としてその成果を報告した(Okita R, et al. Cancer Immunol Immunother 2017)。また、ULBPの発現解析についてもULBP-1, -2/5/6,-3,-4について発現解析を終えた。ULBP1-6については残念ながら発現の強弱と予後との関連性は認められなかったが、臨床病理学的因子との関連性については新たな知見が得られたので、現在論文を執筆中である。以上、免疫染色を中心とした研究は、当初の計画以上に研究が進んでいる。 一方、in vitro実験では、EGFRやHER3のリガンド刺激でPD-L1発現量が変化することを確認できたが、さらに詳細にそのメカニズムを明らかにするには既知のIFN-gを介したPD-L1発現機構との比較が必要との考えに至った。そこで、新たにIFN-gを購入し、EGFR, HER3リガンド刺激とIFN-g刺激との比較を行い、それぞれ異なる細胞内シグナルが関与していることが明らかになった。今後網羅的に細胞内シグナルを解析したうえで、microRNAを含めたPD-L1発現制御機構の全体像を明らかにすることを優先したいと考えており、まずは細胞内シグナルの網羅的解析を目的にリン酸化抗体アレイ解析準備を開始したところである。以上のような方針の変更があり、機能解析が進んでいないため、全体的な進捗はやや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
非小細胞肺癌切除標本を用いた免疫染色を中心とした研究については、発現解析を終えた各分子(EGFR, HER2, ULBP1-6, PD-L1)間での関連性をさらに統計学的手法で解析し、その関連性を明らかにする。 一方、in vitro実験については、現在準備を開始した細胞内シグナルの網羅的解析を目的としたリン酸化抗体アレイの結果を確認の後、EGFRやHER3のリガンドならびにIFN-gで刺激した非小細胞肺癌細胞株からmicroRNAを抽出し、網羅的なmicroRNA アレイを行う計画である。これによりEGFRやHER3を介したPD-L1発現制御機構について既知のIFN-gによるPD-L1発現制御機構との相違点が見いだされれば、癌特異的にPD-L1発現を抑制する小分子化合物型分子標的薬開発のヒントとなりうる。具体的には、PD-L1発現機構の全体像を解明したうえで、IFN-gとは別経路のPD-L1発現制御機構を明らかにし、細胞内シグナル阻害剤あるいは既存の小分子型分子標的薬剤による癌特異的なPD-L1発現抑制の可能性を探る。 また、NK細胞についても現在NK細胞を不活化するKIRを標的とした免疫チェックポイント阻害剤が開発され、臨床試験が行われている。NKG2Dリガンド発現制御機構の解明はNK細胞に対する免疫チェックポイント阻害剤の効果発現機構や耐性克服機構の解明に役立つ可能性があり、ULBP1-6の発現制御機構についても、PD-L1発現制御機構の解明に用いている実験手法を駆使して、研究を継続する。
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次年度使用額が生じた理由 |
① 2016.8月から使用可能な施設内の競争的研究資金(川崎医科大学プロジェクト研究費)を600,000円獲得することができ、物品費(試薬購入資金の一部と細胞培養に必要な消耗品の大部分)は川崎医科大学プロジェクト研究費を利用したため、物品費は予定よりも約500,000円少ない支出となった。② 旅費として海外学会も含めて25万円の支出を計画したが、海外学会(ESMO2016, コペンハーゲン)の旅費について他の研究費を利用でき、約200,000円少ない支出となった。③一方で、本研究の一部は計画よりも順調に進捗し、論文化することができたことから、当初は計画になかった論文校正料39,591円が必要となった。 これらの計画外の要因により、最終的に638,867円を翌年以降に繰り越すこととなった。
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次年度使用額の使用計画 |
H28年度に得られた結果から、H29年度は当初の計画通り、microRNA アレイを行う方針としているが、一検体当たり65,000から80,000円の費用がかかり、8-12検体を外注すると520,000-960,000円を要す見込みである。当初よりmicroRNAアレイ外注の予算として500,000円を計上していたが、検体数によっては資金が不足するため、microRNAアレイ外注にかかる費用の不足分にH28年度の余剰資金を用いる計画である。
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備考 |
研究者所属機関のホームページに研究成果を掲載し、ひろく国民に向けて成果を発信している。またmicroRNA解析については、海外研究協力者であるカロリンスカ研究所Rolf Kiessling教授との共同で行う予定であり、成果は過去の共同研究同様、カロリンスカ研究所のwebページ(http://ki.se/en/onkpat/rolf-kiesslings-group)にも掲載される見込みである。
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