研究課題
血液中を循環する「循環腫瘍細胞(CTC)」は微小転移の指標として臨床的有用性が期待されるが、我々の胸部悪性腫瘍での臨床研究において既存のCTC検出システム(CellSearch)では感度不足であることが示された。そこで、より高感度なCTC検出系の開発に取り組み、任意の捕捉抗体を結合可能なマイクロ流路チップシステム(CTC-chip)を独自に開発し基礎実験でその有用性を示した。本研究では、新開発のCTC-chipを用いて呼吸器悪性腫瘍(肺癌や胸膜中皮腫等)におけるCTCの臨床的有用性を検討すると同時に、癌幹細胞分離や上皮間葉移行(EMT)等の癌の遠隔転移成立に関わる基礎的検討を行う。また、正常細胞と腫瘍細胞の誘電特性の相違を利用した誘電泳動による腫瘍細胞分離法を応用した更に高感度な新規CTC分離システム開発にも着手し、胸部悪性腫瘍において臨床応用可能なCTC検出系の開発を目的とする。本年度は、新規CTC検出系としてのCTC-chipについて基礎的な性能の検討を行った。CTC-chipは癌細胞の表面抗原に反応する抗体(通常は上皮由来の癌細胞に強発現するEpCAMに対する抗体)を結合した無数のマイクロポストの間に血液を流すことにより、血液中に微量に存在する癌細胞を捕捉するシステムである。新開発CTC-chipの特長は、マイクロポスト表面が反応性に富むため、任意の捕捉用抗体を容易に結合させることができる点である。したがって、まず肺癌や中皮腫細胞の表面に発現している抗原を、それぞれの細胞株や手術で切除された組織を用いて確認した。その結果得られたEpCAMを含む複数の標的について、細胞捕捉に用いる抗体とそのCTC-chipへの結合条件を、肺癌/中皮腫細胞株をPBSあるいは血液に混合したCTCモデルからの細胞回収率により評価し、至適条件の検討を行った。
2: おおむね順調に進展している
肺癌と胸膜中皮腫では発現している細胞表面抗原が異なるため、それぞれに応じた捕捉抗体を用いた検討が必要であるが、それぞれの条件についてCTCモデルでの検討が進んでいる。
今後は捕捉した細胞の検出に関する条件の確認を行い、臨床検体でのCTC捕捉・検出を進め、得られた検出結果と臨床病理学的因子(進行度/病期、病理組織型や分化度等)、予後や抗癌剤の治療効果等との相関を解析する。また、分離されたCTCからDNA/RNAを抽出してEGFR遺伝子変異およびALK融合遺伝子の検出を試み、原発部位との比較によりその妥当性を検証する。更にchip上での追加免疫染色により捕捉されたCTCの特徴を明らかにする。尚、CTC検出に関して十分な感度が期待できない場合にはCTC-chipと磁気ビーズの組み合わせやサイズ分離、誘電泳動によるCTC分離へ研究の主体移行を検討する。
至適条件検討に時間を要し、平成28年度に予定していた実験が実施できなかったため。
細胞捕捉システムとしてはほぼ完成しているので、次年度はこのシステムを用いた検出条件の確認を行い、臨床検体についての検討を開始する。
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