研究課題/領域番号 |
16K10698
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研究機関 | 千葉県がんセンター(研究所) |
研究代表者 |
横井 左奈 千葉県がんセンター(研究所), がんゲノムセンター, 部長 (30372452)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 肺癌 / 染色体転座 |
研究実績の概要 |
肺癌におけるALKの活性化は主に染色体逆位により引き起こされる。ALK阻害薬による治療は、これまでALK自身や他のチロシンキナーゼ分子の二次的変化によるシグナル再活性化に基づく耐性獲得により長期の予後改善は得られていない。本研究では、染色体逆位の生成機序とされるクロモスリプシスに着目し、染色体崩壊後のゲノム再構成による発現制御異常を同定し、新しいALK肺癌治療法の開発を目的とする。平成28年度は、正常組織由来の不死化細胞をストレス処理し、RT-PCRによりEML4-ALK転座の生成されたもののスクリーニングを行った。 一方、見出した遺伝子変化を実際の患者検体において検証するために、肺癌患者の生検検体および手術切除検体を用いた三次元初代培養を行い、113症例の培養細胞を保存した。同時に、全症例の癌部および非癌部の組織について、培養を介さない状態での凍結保存も実施した。これらの症例において、肺癌において最も頻度の高い抗がん剤感受性分子マーカーEGFRの変異のホットスポットであるエクソン18, 19, 20, 21の変異および欠失をダイレクトシークエンス法及びDHPLC法により確認した。 また、TCGAに登録されている517症例の肺腺癌のRNAシークエンスデータを用いてALKの発現亢進を認める症例を抽出し、ALK遺伝子の各エクソンのリード数分布により染色体転座の有無の二群に分けた。各群のRNAシークエンスデータのクラスタリング解析により、ALK活性化に伴う発現変動遺伝子に差があるかどうかを確認した。その結果、染色体転座群に共通する発現変動遺伝子は468個であり、非転座群に共通して変動する発現変動遺伝子は349個であった。しかし、両群に共通する遺伝子はわずか22個であり、ゲノム構造異常の有無により、発現変動する遺伝子群に大きな違いがあることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の研究計画に挙げていたin vivoスクリーニングである、正常組織由来の不死化細胞の転座誘導を予定通り開始した。また、平成29年度以降の研究計画に挙げていたin vitroスクリーニングである、肺癌次世代シークエンスデータを用いた発現変動遺伝子の解析は平行して先行して開始した。同様に平成29年度以降に計画していた肺癌臨床検体での解析および肺癌初代培養細胞での解析に備えて、先行して症例の蓄積を開始した。 以上より概ね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度以降も、これまでと同様に研究計画に挙げた項目につき平行して効率よく推進する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画の平成28年度に挙げていた染色体転座の誘導はスクリーニングに時間を要する。平成29年度以降に計画していた次世代シークエンスデータの解析と肺癌臨床検体の初代培養も膨大な情報解析や症例の蓄積に時間を要する。そのため、これらの計画を順次行うのではなく、平行して実施し、効率よく進めることとした。そのため、当初の予算配分と差が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度の研究計画を先行させた分、平成28年度の研究計画を引き続き実施しているため、繰り越した予算により平成29年、平成30年にわたり転座の誘導解析を継続する予定である。
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