肺癌におけるALKの活性化は主に染色体逆位により引き起こされる。ALK阻害薬による治療は、これまでALK自身や他のチロシンキナーゼ分子の二次的変化によるシグナル再活性化に基づく耐性獲得により長期の予後改善は得られていない。本研究では、染色体逆位の生成機序とされるクロモスリプシスに着目し、染色体崩壊後のゲノム再構成による発現制御異常を同定し、新しいALK肺癌治療法の開発を目的とする。平成29年度は、正常組織由来の不死化細胞に対し、過酸化水素または放射線照射によるストレス処理を行い、ALKの発現誘導株のスクリーニングを進めた。その結果、親株と比較してALKの高発現する株が複数取得された。そのため、これらのクローニングを進めた。また、ゲノム一次構造決定のため、次世代シークエンサーを用いて全ゲノム解析を進めた。 一方、ALK転座肺癌の標準的な治療法であるチロシンキナーゼ阻害剤は、1年で耐性が獲得されてしまう。ALK転座肺癌における側副路を標的とした治療法開発のため、現在市販されているさまざまな分子経路の阻害剤から、標的分子がはっきりとしていて、バイオプローブとして有用な低分子化合物と既存の制がん剤から構成される約360種類の化合物ライブラリーを導入した。親株を用いて、5 μMの低分子化合物を添加し72時間後にMTT法による比色定量にて細胞増殖を測定し、増殖を抑制する分子もしくはシグナル伝達経路を同定するためのスクリーニング系を構築した。 更に、見出した遺伝子変化を実際の患者検体において検証するために、平成30年度は132症例の肺癌患者の生検検体および手術切除検体を用いた三次元初代培養を行い、総計361症例の初代培養細胞を保存した。これらの症例のEML4-ALK転座の有無の解析を進めた。
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