研究実績の概要 |
神経再生の難しい神経組織損傷に対して、細胞移植により補う再生医療が期待されている。これまでに片マヒ、脊髄損傷、認知症モデルマウスに対してヒトiPS細胞由来神経細胞移植を検討しており、今回は大脳皮質損傷による運動機能障害モデルマウスに対して幹細胞由来神経細胞移植実験を行う上で、移植する部位及び細胞形態の検討、回復に関与する因子の探索を行った。 移植細胞の遊走による神経再生を解析するため、脳損傷モデルとして運動野を凍結損傷させて1週間後の片マヒモデルマウスを用い、運動機能の評価系として、Rota-rod法、Beam walking試験を行い、下肢運動機能を測定することが判定しやすいことがわかった。移植細胞としてはヒトiPS細胞から神経分化させた神経幹・前駆細胞を移植させる場合、マウス由来神経幹・前駆細胞及び遺伝子欠損マウス由来の神経幹・前駆細胞を移植検討した。また、新しい治療アプローチとしての移植細胞形態、移植場所の検討として高次構造を供給できる神経細胞シートを作製し、移植効果の比較を行った。 移植1週後から4週後にかけてコントロール群 (PBS投与)に対して、ヒトiPS由来神経細胞移植群は体重荷歩行の有意な回復が見られた。また、移植後の時間経過における細胞状態を調べるため、移植後経時的に解剖し、作製したマウス脳の凍結切片に対して免疫組織学的解析を行ったところ、移植部位とは異なる損傷皮質部位にヒトiPS由来神経細胞が運動神経に分化し定着している事が確認された。損傷領域に発現する有効因子SDF1,リーリンを同定し、リン酸化によるDab1活性化が損傷脳移植細胞によって増加することを見いだした。Reelinシグナル系路が遮断されたDab1 変異マウス(Yotari)の細胞を用いて移植実験を行った結果、野生型細胞移植に比べて運動機能回復が劣ることを見出した。
|