代表的な原発性脳腫瘍であるグリオーマは、重要な機能を担う脳に浸潤性に発育し、また放射線・化学療法に抵抗性であることから、極めて治癒を得ることが難しい難治性腫瘍である。その最悪性型である膠芽腫の治癒を得るためには、腫瘍細胞特異性の高い細胞死誘導法が必要となる。 我々は、近赤外蛍光色素であるindocianine green (ICG) 結合型リポソームを開発し、その静脈内投与で脳腫瘍組織への高度かつ長期間の集積すること、近赤外線照射によって一重項酸素による細胞死と強力な特異的抗腫瘍免疫を誘導することを証明してきた。これを新規ナノキャリアとして用い、抗がん剤を封入して局所に高濃度に分布させることによって治療効果の向上を目指している。標準治療薬であるテモゾロマイドを用いて、9L-グリオサルコーマ細胞を移植したラットの腫瘍サイズと生存期間は通常のICG結合型リポソームを用いた光線力学療法の結果と差を認めなかった。一方で、摘出標本の病理学的検索では、テモゾロマイド封入群で、より広範な壊死が観察され、同時にCD8 T細胞の浸潤増強が認められた。抗腫瘍免疫の誘導に重要なheatshock protein-70(HSP70)の誘導に関し検討を行い、テモゾロマイド封入群、非封入群ともに、コントロール群に比べ発現増強を認めた。以上より、抗がん剤を封入したICG結合型リポソームは強力な細胞死を誘導し、HSP70の関与する経路によって自然免疫の増強から特異的抗腫瘍免疫を発動させることが確認された。 臨床応用を視野に、光ファイバーによるレーザー照射の治療効果を確認した。壊死領域、アポトーシス誘導に関し光照射群で増強が認められたが、生存期間の延長には結びつかなかった。
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