研究実績の概要 |
がんの代謝という側面とエピゲノム異常という側面の両者を橋渡す位置に存在するTET (ten-eleven translocation) という分子に注目した。TET1, 2, 3のうち、どれが癌化に関与しているかは、それぞれの癌腫により異なる。膠芽腫細胞株および手術摘出標本から樹立した腫瘍幹細胞株に対しTET1,2,3の遺伝子発現を評価した。細胞株の種類およびTETのサブタイプによっても発現量が異なっていることが分かった。低酸素条件下でTETの発現が低下するという報告もあるが、今回我々が行った実験では、有意な変化は指摘できなかった。またTETの発現とIDH1変異の間には有意な相関はなかった。しかし、TET1蛋白発現に注目してみると、核内に発現している摘出標本もあれば、細胞質に発言しているものもあった。TET1蛋白の局在はIDH1遺伝子変異との間に相関関係があることが分かった。これまでの報告で、IDH変異は2HGを介して、TET family タンパクの酵素活性を阻害し、5-hydroxymethylcytosine(5hmC)の減少をもたらし、メチル化を調整していると考えられている。一方で、IDH 変異のないgliomaでも5hmCの減少は観察されている。したがって、TET1タンパクの核からの排除が、IDH変異のないgliomaにおける5hmCの減少に関与している可能性がある。 悪性神経膠腫の発生機序に、TETがどのように関与しているか、さらにTETによってエピゲノム調節を受けている遺伝子についても検索する。治療抵抗性を示す原因として考えられている腫瘍幹細胞(glioma stem cells)、さらにはがん微小環境としての低酸素環境でのTETの変化に、着目し研究を進め、代謝異常とエピゲノム異常のつながりを明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
膠芽腫細胞株 (U87MG, T98G, U251MG, U373MG)および腫瘍幹細胞株 (MGG4, MGG8, MGG23, MGG31, MGG119, MGG152) を対象とした。IDH1遺伝子の変異の有無をパイロシークエンス法で評価した。4種の膠芽腫細胞株はすべてIDH1遺伝子の変異はなく、腫瘍幹細胞株のうち、MGG119とMGG152がIDH1遺伝子変異を有していた。正常酸素条件下で培養し、TET1, 2, 3のmRNA発現をqRT-PCRで測定した。 TET1とTET3の発現量は細胞株によって異なり、逆相関を示していた。1%O2低酸素状態で24時間、48時間、72時間で培養し、同様にmRNA発現レベルを定量評価した。TET2とTET3は低酸素刺激で発現が抑制された。しかし正常酸素濃度条件下と比べて有意差はなかった。また、TETの発現量は、IDH1遺伝子の変異との関連はなかった。TET酵素活性を測定した。またTETが酵素活性を及ぼすとき基質となる5-mCと代謝物である5-hmCをELISAで測定した。mRNAの発現量はTETの酵素活性とは相関しなかった。 マウス正常大脳およびこれまでのヒト臨床摘出標本に対し、抗TET1抗体およびIDH1R132抗体を用いて免疫染色を行った。標本によって、核内に発現しているもの、細胞質に発現しているもの、両者に発現しているものとさまざまであった。TET1蛋白の局在について検討するため、蛍光免疫染色を行った。IDH1変異のある標本ではTET1蛋白は核に発現していることがほとんどであり、IDH1変異のない標本は細胞質には発現していることが分かった。
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