研究実績の概要 |
がんの代謝という側面とエピゲノム異常という側面の両者を橋渡す位置に存在するTET (ten-eleven translocation) という分子に注目した。まず膠芽腫細胞株のTET1,2,3の遺伝子発現を評価した。膠芽腫細胞株の種類およびTETのサブタイプによっても発現量が異なっていることが分かった。膠芽腫細胞株(U87MG, T98G, U251MG, U373MG)のTET1, 2, 3それぞれのmRNA発現レベルをリアルタイムq-PCRで定量した。TET1とTET3については、細胞株間で発現量に差があり、最も発現が高い細胞株と低い細胞株を同定した。TET2は細胞株間で差異はなかった。1%O2低酸素状態で24時間、48時間、72時間で培養し、同様にmRNA発現レベルを定量評価した。TET2とTET3は低酸素刺激で発現が変化する傾向があったが、正常酸素濃度条件下と比べて有意差はつかなかった。神経膠腫の患者から採取した腫瘍切片を対象としTET1の細胞内局在について、蛍光免疫染色により評価した。核もしくは細胞質の局在によってIDH変異との相関について検討した。IDH変異のある症例では核に集積する傾向が顕著であり、またIDH変異のない症例ではnuclear typeは少なく、cytoplasmic typeが多い傾向にあった。これまでの報告で、IDH変異は2HGを介して、TET family タンパクの酵素活性を阻害し、5-hydroxymethylcytosine(5hmC)の減少をもたらし、メチル化を調整していると考えられている。一方で、IDH 変異のないgliomaでも5hmCの減少は観察されている。したがって、TET1タンパクの核からの排除がIDH変異のないgliomaにおける5hmCの減少に関与している可能性があった。
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