研究課題/領域番号 |
16K10772
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
吉野 篤緒 日本大学, 医学部, 教授 (50256848)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 脳腫瘍 / 膠芽腫 / 抗腫瘍効果 / 核酸類縁体 / 細胞周期 / p53 / アポトーシス / temozolomide |
研究実績の概要 |
悪性神経膠腫、なかでも膠芽腫は極めて難治性であり治療成績の改善は大きな課題である。現在、temozolomide(TMZ)が化学療法における標準治療薬として用いられているが、延命効果を示すものの、満足すべき効果を約束するものではない。一方ribavirinは、核酸アナログであり抗ウィルス薬として、1972年にSidwellらがはじめて報告している。また、IFN-alpha2aとの併用投与により、慢性C型肝炎に対する標準治療薬となっている。このribavirinが、乳癌や急性骨髄性白血病において、抗腫瘍効果を示すという報告が散見される。また、当教室からもごく最近、悪性神経膠腫細胞株において細胞増殖抑制効果を示すことを報告してきた(Oncol Lett. 2014)。そこで、ribavirinの膠芽腫に対する臨床応用を目指し、さらなる知見の蓄積を目的として、以下の本研究を計画した(ribavirin(医薬品)に対する再開発(Drug Repositioning)という側もある)。 悪性神経膠腫細胞株(および脳腫瘍幹細胞:GSCs)を用いて、ribavirinの抗腫瘍効果の作用機序を解明するために、①apoptosisの誘導、②細胞周期への影響、③p53 pathwayの活性化を検討、④DNAへの影響、等などを検討。また、膠芽腫の標準治療薬であるTMZ単剤と比較して、TMZにribavirin(2剤)、TMZにIFN-βとribavirin(3剤)を併用することで、相乗効果が得られるかも検討(それぞれにおける作用機序も検討)。 一方、膠芽腫の治療はglioma stem-like cells (GSCs)を対象、あるいは幹細胞の側面を理解とした戦略に転換する必要もある。そこで、GSCsにおける分化制御の過程、多能性、未分化性の維持機構に対する、ribavirinの効果も検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Ribavirinのヒト悪性神経膠腫細胞株に対する抗腫瘍効果として、①7種類の細胞株(U-87MG、U-138MG、A-172、AM-38、T98G、U-251MG、YH-13)において、dose-dependentに細胞増殖抑制効果を認めた。なお、肝炎における定常期の血中濃度は100 μM以上に相当するが、10 μMでも細胞増殖抑制効果を示しており、臨床応用に期待が持たれる。以下、U-87MG、U-138MGを用いて検討を行い、②DNA double-strand breaks(DSBs)を起こす(蛍光顕微鏡でγH2AXが核内にドット状に集積を確認。また、リン酸化ATMの発現をWestern blottingにて確認)。③細胞周期をG0/G1に誘導(FACSにて確認)。なお、ribavirinによるDSBsはnon-homologous end joiningによる修復機構を誘導すると推察。④p53 pathwayを誘導(p53、リン酸化p53、p21をWestern blottingにて確認)。⑤アポトーシスを誘導(FACSにて後期アポトーシスの確認)。⑥Caspase cascadeの誘導(Bax、Fas、caspase-8、caspase-9、caspase-3をWestern blottingにて確認;外因性アポトーシスと内因性アポトーシスの両系とも活性化)、を確認した。 以上より、ribavirinのヒト悪性神経膠腫細胞株に対する抗腫瘍効果は、DSBsを誘発し、細胞周期をG0/G1に誘導、さらにアポトーシスも誘導するよることによると考えられた。 さらに、temozolomide(TMZ)単剤投与群、TMZ + ribavirin 2剤併用投与群および、TMZ + ribavirin + IFN-β 3剤併用投与群の抗腫瘍効果を比較検討している。
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今後の研究の推進方策 |
現在、膠芽腫に対しtemozolomide(TMZ)が化学療法における標準治療薬として用いられていが、より効果的なTMZ治療レジメンを確立することが必要である。また、慢性C型肝炎に対し、ribavirinとIFN-alpha2aとの併用投与が標準治療薬となっている。そこで、悪性神経膠腫細胞(7種:U-87MG、U-138MG、A-172、AM-38、T98G、U-251MG、YH-13)に対し、TMZ単剤投与群、TMZ + ribavirin 2剤併用投与群および、TMZ + ribavirin + IFN-β 3剤併用投与群の抗腫瘍効果の比較検討を行う(更に検討を進める:その効果が相乗であるか相加であるのかChou Talalay method を用いて検討を加える。また作用機序の違い、等)。 TMZ耐性に寄与する因子の中で、MGMTはその主な機構に関与していると考えられている。さらに、MGMTは膠芽腫において予測的であるだけでなく予後的価値も有することが示されている。Ribavirint単独群や、TMZ + ribavirin 2剤併用投与群およびTMZ + ribavirin + IFN-β 3剤併用投与群が、MGMTに対してどのように作用するかも重要な検討事項であると考えている。 一方、膠芽腫の治療はglioma stem-like cells (GSCs)を対象、あるいは幹細胞の側面を理解とした戦略に転換する必要もある。Ribavirinは幹細胞の分化制御の過程や、多能性、未分化性の維持機構に重要な役割を果たしているとされるEZH2を阻害するとされているが、GSCsに対して脱未分化(脱幹細胞)として作用するかも明らかにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費である消耗品費、特に抗体、Western blottingに掛かる費用、あるいは悪性神経膠腫細胞株の培養に関わるフラスコ、培養液、チップ類、ピペット類等、当教室にて購買してあった既存のものを使用したために、消耗品等物品費の支出が少なく研究を遂行することができた。 細胞株培養関連消耗品、細胞培養栄養因子、各種免疫染色用抗体、免疫染色用2次抗体、免疫染色用試薬、チップ類、ピペット類、RNA抽出キット、DNA抽出キット それぞれ10万円の予算を組んだが、上記のごとく既存のものを使用したために半額程度の支出となった。一方、情報収集を含めた学会への参加費用等 旅費が、予測を大きく上回ることとなった。 結果として、次年度使用額が17,587円となった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度には、既存の消耗品等の物品費は相当額掛かるものと考えている。当該年度は、消耗品等は当教室にて購買してあった既存のものを使用したために、支出が少なく研究を遂行することができた。しかし、当該年度を含め購買した消耗品はほぼ使用している。特に、申請時には次年度の消耗品費として、各種免疫染色用抗体、免疫染色用2次抗体、免疫染色用試薬等は計上していない。まずは、次年度使用額はこれらの消耗品費にあてたい。また、不足分が発生した場合は、次年度の人件費・謝金、その他の計上費用を当てることを考えている。 次年度使用額は、17,587円であるが、上述の通り、消耗品費に当てる予定である。
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