研究課題/領域番号 |
16K10774
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研究機関 | 地方独立行政法人宮城県立病院機構宮城県立がんセンター(研究所) |
研究代表者 |
山下 洋二 地方独立行政法人宮城県立病院機構宮城県立がんセンター(研究所), がん薬物療法研究部, 特任研究員 (30420045)
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研究分担者 |
島 礼 地方独立行政法人宮城県立病院機構宮城県立がんセンター(研究所), がん薬物療法研究部, 部長 (10196462)
佐藤 郁郎 地方独立行政法人宮城県立病院機構宮城県立がんセンター(研究所), ティッシュバンクセンター, 部長 (50225918)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 脳腫瘍学 |
研究実績の概要 |
グリオーマ悪性形質の原因となるプロテインホスファターゼ(脱リン酸化酵素)異常を標的とした治療開発をめざす。キナーゼを標的とする従来法以外の、革新的治療法の可能性が期待できる。 課題1:PTPRZ発現亢進・スプライシング異常による悪性化の機構 当センター組織バンクのグリオーマについて、チロシンホスファターゼ約80種類の発現を調べたところ、正常脳組織に比べて著しく発現が高かったのが、PTPZとCDC25Aであった。CDC25Aに関しては、グリオーマ細胞株の一部は、その増殖がCDC25Aに依存していることを示した。本実験によって、PTPZが治療の標的となる可能性を検討している。PTPZはスプライシングにより3つのアイソフォームを持つ。本実験は、悪性化とスプライシングの関連を検討している。 課題2:Ppp6c(PP6の触媒サブユニット)発現低下による腫瘍増大の機構 我々は、グリオーマ予後不良と関連するホスファターゼを同定するため、Prognoscanを検索し、ホスファターゼであるPP6の触媒サブユニット(Ppp6c)を、予後不良因子として見いだした。これは、Ppp6cが、グリオーマを含むがんの抑制遺伝子である可能性を示したが、その証明はなされていなかった。そこで我々は、一般に用いられる「マウス皮膚発がん実験」で検討を加えることを考えた。た。答えはイエスであった。DMBA塗布により、Ppp6c欠失皮膚で、早期にパピローマが発生した。TCGAゲノムプロジェクトのデータでは、ほとんどのグリオーマにはRTK-RAS-PI3Kシグナルの何れかに変異があり、結果的に「増殖と生存」に進む。我々は、仮説「PP6活性低下は、RAS-PI3Kシグナルを増強し、グリオーマの急速な増大の原因になる」と持った。現在、これを証明する実験を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
課題1:PTPRZには、エクソン12のスプライシングの違いで、3つのスプライシングバリアント(PTPRZ-A PTPRZ-B、およびPTPRZ-S)があるが、我々は東北大組織バンクのサンプルを用いて、予後との関係を調べた。PTPRZ-Sの高い発現は予後が悪い傾向にあった。次に、我々は、グリオーマの株細胞でSox2(神経幹細胞のマーカー)をノックダウンさせるとPTPRZの発現がほぼ完全に抑制されることを見いだした。さらに、ChIPアッセイによりSox2がPTPRZのプロモーターに結合することも確認した。従って、PTPRZは、転写因子Sox2の直接の標的遺伝子であると結論できた。 課題2:皮膚においてconditional に、Ppp6c欠損および変異型KRASを発現するマウスを用いて、PP6欠損が変異型KRASによる腫瘍発生を促進することを示唆する結果を得た。KRAS変異のみでは腫瘍発生がない時期で、2重変異を持つマウスでは、口唇、指、肛門等で顕著な腫瘍発生が認められた
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今後の研究の推進方策 |
課題1PTPRZ発現亢進・スプライシング異常による悪性化の機構を調べるために、PTPZ-Sを欠失させたグリオーマ株細胞を作成し、その増殖・腫瘍原性への影響を調べる。また、グリオーマの組織におけるスプライシング因子の発現異常の有無を調べる。 課題2変異型KRASとPpp6c欠損の相乗効果の検討を行う。PP6によるDNA修復制御機構の検討を行う。Ppp6c発現低下グリオーマに対する治療開発の検討のために、Ppp6c発現が抑制されたグリオーマ株化細胞を作成し、それらに対する各種抗がん剤や放射線の影響を調べる。
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