研究課題
gliomaの悪性形質の原因となる脱リン酸化酵素(プロテインホスファターゼ)の異常の存在を明らかにし、それを標的とした新規治療開発をめざした研究である。リン酸化酵素を標的とする治療に加えて、それを補完する治療法の開発が期待できる。課題1:PTPRZ発現亢進・スプライシング異常による悪性化の機構当センター組織バンクのgliomaについて、チロシンホスファターゼ(PTP)の発現の異常の有無を検討した。正常脳組織に比べて著しく発現が高かったのが、PTPZとCDC25Aであった。CDC25Aに関しては、glioma細胞株の一部は、その増殖がCDC25Aに依存していることを示した。本実験によって、PTPZが治療の標的となる可能性を検討した。課題2:Ppp6c(PP6の触媒サブユニット)発現低下による腫瘍増大の機構Prognoscan(遺伝子の発現と予後の相関に関するデータベース)によると、glioma予後不良因子として、PP6の触媒サブユニット(Ppp6c)が同定された。我々は、Ppp6cが、がんの抑制遺伝子である可能性を考えた。そこで我々は、その可能性を検討するために、「マウス皮膚発がん実験」で検討を加えることを考えた。DMBA塗布により、Ppp6c欠失皮膚で、早期にパピローマが発生した。TCGAゲノムプロジェクトのデータでは、ほとんどのgliomaにはRTK-RAS-PI3Kシグナルの何れかに変異があり、結果的に「増殖と生存」に進む。我々は、仮説「PP6活性低下は、RAS-PI3Kシグナルを増強し、gliomaの急速な増大の原因になる」を持った。現在、これを証明する実験を行っている。
2: おおむね順調に進展している
課題1:PTPのリセプタータイプの1つPTPRZには、3つのスプライシングバリアント(PTPRZ-A PTPRZ-B、およびPTPRZ-S)があるが、我々は組織バンクのサンプルを用いて、予後との関係を調べた。PTPRZ-Sの高い発現は予後が悪い傾向にあった。次に、我々は、グリオーマの株細胞でSox2(神経幹細胞のマーカー)をノックダウンさせるとPTPRZの発現がほぼ完全に抑制されることを見いだした。さらに、ChIPアッセイによりSox2がPTPRZのプロモーターに結合することも確認した。従って、PTPRZは、転写因子Sox2の直接の標的遺伝子であると結論できた。課題2:皮膚ケラチノサイトにおいて、タモキシフェン投与により、2重変異(Ppp6c欠損および変異型KRASの発現)が誘導できるマウスの作製に成功した。本2重変異マウスを用いて、PP6欠損が変異型KRASによる腫瘍発生を促進することを示す結果を得た。KRAS変異のみでは腫瘍発生がない時期で、2重変異を持つマウスでは、口唇、指、肛門等で顕著な腫瘍発生が認められた。
課題1 gliomaにおける、PTPRZスプライシング異常と悪性化との関連を調べるために、PTPZ-Sを欠失させたグリオーマ株細胞を作成し、その増殖・腫瘍原性への影響を調べる。また、グリオーマの組織におけるスプライシング因子の発現異常の有無を調べる。課題2 変異型KRASによりイニシエーションされた腫瘍形成に対する、PP6機能不全の影響の検討を行う。PP6によるDNA修復制御機構の検討を行う。PP6機能不全により悪性化した腫瘍に殺傷する治療開発の検討のために、Ppp6c発現が抑制された株細胞を作成し、それらに対する各種抗がん剤や放射線の影響を調べる。
消耗品費が当初の想定よりもわずかに少なく済んだため。次年度の消耗品費に上積みし、より迅速な計画進捗をねらう。
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