本年度は、昨年度に導入したレンチウイルスによる遺伝子導入システムを用いた脳腫瘍モデルの確立を引き続き行なった。脳腫瘍関連遺伝子の導入やがん抑制遺伝子の不活化を脳腫瘍の発生起源と考えられている神経幹細胞に特異的に達成するために、Nestin-creマウスとCag-Cas9マウスの交配によるコンディショナルダブルトランスジェニックマウスを作成した。続いて、本系統の交配・継代や表現型に問題がないことを確認したのち、テント上上衣腫のドライバー遺伝子として知られるRELA融合遺伝子を成体マウスや新生仔マウス脳に導入を行ったところ、以前の報告と同様にヒト上衣腫に類似したマウス脳腫瘍の誘導が観察され、本モデルシステムが十分に機能することが確認された。また、CRISPR-Cas9システムによるがん抑制遺伝子の不活化は本モデルマウス脳より樹立したNeurosphere lineを用いた実験で確認された。現在、RELA融合遺伝子陽性上衣腫で高頻度で同定されたCDKN2A遺伝子の不活化の影響や上衣腫で同定されたYAP1融合遺伝子の脳腫瘍誘導能の検討を行うために、関連するレンチウイルスをマウス脳内に注入し、これらのマウスの表現型の観察を行なっている。さらに、CRISPR-Cas9 システムを用いてマウス脳内で染色体・遺伝子再構成を行い内因性のRELA融合遺伝子を誘導する脳腫瘍モデルの作成も試みている。これまでに、培養細胞にて内因性のRELA融合遺伝子の誘導に成功したことから、関連レンチウイルスをマウス脳内に注入し同様に脳腫瘍の発生を観察している。そして、上記実験より脳腫瘍が誘導された場合には、昨年度に行った薬剤スクリーニングより同定された薬剤の抗脳腫瘍効果をこれらの脳腫瘍モデルを用いて検討を進め、引き続き上衣腫の治療標的の同定を目指していく。
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