研究課題
膠芽腫は極めて予後不良で放射線抵抗性の悪性脳腫瘍である。本研究では、抗真菌薬である 5-FC を細胞内で抗腫瘍薬の5-FU に変換するプロドラックシステムと自己増殖型レトロウイルス(Retroviral Replicating Vector: RRV)による遺伝子発現システムを用いた遺伝子治療と放射線治療の併用効果を膠芽腫幹細胞を使って検証し臨床利用へ応用する事を目的としている。平成28年度においては、本研究の遂行のための基盤となる実験環境の整備を進めることが出来た。具体的には、RRVを当施設で使用するべく、Material Transfer Agreementを締結してマテリアルを輸入した。また、本研究所内での倫理審査を経て実験遂行可能な環境を整備する事が出来。その一方、免疫不全動物(マウス)へのヒト由来膠芽腫幹細胞の頭蓋内移植予備実験を行う環境を整備することが出来、一つの脳腫瘍幹細胞を用いたモデルを作成していた。平成29年度においては、国立がん研究センター研究所の新研究棟の完成を受けて研究室自体が引越しを行った。平成29年夏季に現在の研究室の引っ越しが完了し、それに伴って一時中断していた研究を再開するべく、新しい環境下での実験体制を整えた。具体的には平成28年度に開始予定だった脳腫瘍幹細胞の放射線感受性とRRV感染性スクリーニングを行うべく、放射線実験施設の利用手続きを進めた。また、並行して動物実験の環境整備を進め、既に樹立されたヒト由来膠芽腫幹細胞の頭蓋内移植予備実験を進めた一方で、マウス脳腫瘍モデルに対する放射線照射実験の実施環境を整備するべく、関係各所と相談しながら遺伝子組み換え動物への放射線照射を行う環境を整備しているところである。平成30年度は予備実験で確立したマウス脳腫瘍モデルを用いてプロドラッグシステム併用放射線治療実験を開始する計画としている。
3: やや遅れている
本研究計画1年目に当たる平成28年度においては、本研究の遂行のための基盤となる実験環境の整備を進めた。具体的には、米国で開発されたレトロウイルスベクター(RRV: retroviral replicating vector)を当施設で使用するべく、Material Transfer Agreementを締結してRRVを輸入した。この輸入完了に約9か月を要した。また、遺伝子組み換え生物などの使用に関わる諸規制に照らし合わせて倫理審査を経て、本研究を遂行するための環境を整備することができた。その一方で、29年度または30年度に遂行する予定としていた免疫不全動物へのヒト由来膠芽腫幹細胞の移植予備実験を行う環境を整備することができ、前倒しで脳腫瘍移植実験を行う事が出来た。これにより、少なくとも3種類の脳腫瘍幹細胞を用いた脳腫瘍モデルを樹立できた。平成29年度においては、国立がん研究センター研究所の新棟建設完了に伴い当研究所のすべての部門が漸次新棟へ引っ越しを行った。この大きな引っ越しに伴って動物実験施設も一新され、新しい環境下での実験体制を整えた。具体的には平成28年度に開始予定だった脳腫瘍幹細胞の放射線感受性とRRV感染性スクリーニングを行うべく、放射線実験施設の利用手続きを進めた。また、並行してin vitroでの研究計画を予定通り進めながら動物実験環境整備を進め、ヒト由来膠芽腫幹細胞の頭蓋内移植実験を進めた一方で、マウス脳腫瘍モデルに対する放射線照射実験環境を整備しているところである。現在の問題点は、本研究申請時、すなわち旧研究棟の実験環境では可能であった、遺伝子組み換え製剤を移植した動物(法令に従い遺伝子組み換え生物として取り扱う事が必要)に対する放射線照射が、新研究棟の環境下では許可されていないことが挙げられる。この点に関して現在関係各所と協議を進めているところである。
現在の喫緊の問題点としては、以前の実験施設では可能であった遺伝子組み換え生物に対する放射線照射が現在の新研究棟では不可能であることである。本研究の最終的な目標は、プロドラッグシステムとRRVによる遺伝子発現システムを用いた遺伝子治療と放射線治療の併用効果を膠芽腫幹細胞を使って検証し臨床利用へ応用する事であるため、遺伝子製剤を投与されたマウス脳腫瘍モデルに対する放射線照射実験による効果検証は必須である。引き続き、国立がん研究センター内の関係各所との協議を進めていく。動物実験施設からの許可がどうしても出なかった場合には、国内外の共同研究施設など既に上記動物に対して放射線照射が許可されている他施設での研究遂行も考慮するが、その場合には大幅に研究期間の延長が必要になることが予想されるため、引き続き国立がん研究センター研究所内の動物実験施設でも研究が遂行できる許可をいただけるよう、並行して協議を進めていくこととする。その一方で、in vitroの研究環境はほぼ整ったため、引き続きin vitroでの実験(患者由来膠芽腫細胞株の放射線感受性とRRV感染性スクリーニング、膠芽腫細胞の遺伝子発現プロファイル確認)を継続して進めていく予定である。
(理由)研究所の引っ越しに伴って主に動物実験の進捗が滞り、研究費の使用量が想定より少なく済んだため。(使用計画)前年度から繰り越された経費と今年度の経費を有効利用して、今年度は前述した通り新研究所で予定していた研究計画を遂行していく予定である。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件)
Cancer Gene Ther
巻: epub ahead of print ページ: -
10.1038/s41417-018-0020-7
Neuro-Oncology
巻: 19 ページ: 930~939
10.1093/neuonc/nox037