膠芽腫は極めて予後不良で放射線抵抗性の悪性脳腫瘍である。本研究では、抗真菌薬である 5-FC を細胞内で抗腫瘍薬の5-FU に変換するプロドラックシステムと自己増殖型レトロウイルス(Retroviral Replicating Vector: RRV)による遺伝子発現システムを用いた遺伝子治療と放射線治療の併用効果を膠芽腫幹細胞を使って検証し臨床利用へ応用する事を目的とした。RRVを当施設で使用するべく、米国Tocagen社とMaterial Transfer Agreementを締結してRRVを輸入し、当センターの倫理審査を経て実験遂行可能な環境を整備した。並行して複数の脳腫瘍細胞を用いたモデルを作成した。 RRVは膠芽腫細胞株において効率よく増殖し、投与から9日目にはほぼ全ての細胞に感染してプロドラッグである5-FCの投与によって強い殺細胞効果が認められた。更に放射線照射の併用を行う事で殺細胞効果はさらに増加し、我々のプロドラッグシステムの放射線照射による増強効果が確認された。一方で、浮遊培養条件で維持した患者由来の膠芽腫幹細胞株を用いて同様にRRVの感染効率を観察したところ、感染から13日目であっても約半数の導入効率にとどまっていた。 動物実験においては、膠芽腫細胞株を用いたマウス脳腫瘍モデルに対して定位的にRRVを投与した後に5-FCを投与したところマウスの生存期間は有意に延長した。更に、放射線治療の併用によって生存期間はさらに増強し、in vivoにおいても放射線治療の増強効果が確認された。これらの成果は現在論文化が進められており近く投稿予定である。
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