研究課題/領域番号 |
16K10778
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研究機関 | 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪国際がんセンター(研究所) |
研究代表者 |
木下 学 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪国際がんセンター(研究所), その他部局等, 脳神経外科部長 (40448064)
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研究分担者 |
吉岡 芳親 大阪大学, 免疫学フロンティア研究センター, 特任教授(常勤) (00174897)
有田 英之 大阪大学, 医学系研究科, 特任助教(常勤) (60570570)
金村 米博 独立行政法人国立病院機構大阪医療センター(臨床研究センター), その他部局等, 研究員 (80344175)
橋本 直哉 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (90315945)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 脳腫瘍学 / 遺伝子変異 / Radiogenomics |
研究実績の概要 |
本研究では、分子生物学的情報と神経放射線学的データを統合解析する新規病態解析手法(Radiogenomics)を用い、神経膠腫として認識される腫瘍の発生並びに進展の過程で影響を及ぼす分子生物学的因子(遺伝子変異やmiRNAの発現量プロファイルなど)と神経放射線画像を統合的に解析する。そして、最終目的は、得られた知見を基にして、神経放射線画像による神経膠腫の新しい分子診断的技術を開発することである。本研究は、従来型の解析では明らかにすることが出来なかった「画像」と腫瘍の「分子生物学」の関係性を明らかにし、ビッグデータを網羅的に解析することであり、全身疾病の「画像」と「分子情報」の統合解析を推し進めるきっかけとなることが期待される。 平成28年度は神経膠腫のRadiogenomics解析の拡張をおこなった。脳腫瘍に内在する様々な腫瘍生物学的情報(例えば腫瘍の遺伝子変異、DNA増幅、mRNAやmiRNAの発現プロファイルなど)とMRIに代表される神経放射線画像情報を連結し、多数の症例から得られる解析データを症例横断的に統合解析し(Radiogenomics解析)、分子レベルの異常と腫瘍の脳内局在の特徴やMR画像の性状の違いの相関性を明らかにするような画像解析ソフトウエアの開発を終了した。 開発したソフトウェアはMRIのT1, T1Gd, T2強調画像とFLAIR画像のRadiomics解析を可能とするものであり、Matlab言語で作成されたUser InterfaceがFSLと有機的に連携してデータのやり取りを行っている。各画像のregistrationに時間がかかる点にまだ改善の余地があるが、現状で本研究課題を遂行するうえで問題とはならない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究は予定通りに進行している。事前に平成28年度の研究計画として予定していた下記の項目を無事に達成している。 局在解析:各症例のMR画像をNormalized Mutual Informationアルゴリズムを用いて標準脳MR画像であるMNI152に線形変換する。次に、病変部(高悪性度症例は造影病変を、低悪性度病変はT2強調画像での高輝度病変を)を3次元的に抽出し、それらを分子情報に分類して重畳することで、神経膠腫の分子生物学的特徴毎の脳内局在頻度図を作製する。 腫瘍性状解析:各症例のMR画像から得られる「質」的情報を解析する。画像の「質的」な評価とは、MR画像に表現される腫瘍の不均一性、浸潤性、出血性などを指す。画像の複雑性(あるいは乱雑性)を反映すると考えられる「エントロピー」など、各腫瘍の画像から得られる、最小値や最大値、腫瘍辺縁部の明瞭度、不明瞭度なども評価項目にいれ、これら多数の評価項目によるメタデータをクラスタリングし、画像の「質」的検討から神経膠腫を客観的に分類する。
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今後の研究の推進方策 |
研究は当初の予定にの通り、平成29年度も継続する。 神経膠腫の生物学的特徴を規定する因子の網羅的解析:凍結検体抽出DNA/RNAを用いて、次世代シークエンサーによる解析をおこなう。これまでの先行研究データなどから、神経膠腫におけるdriverとなる遺伝子を中心にパネルを作成、target sequencingおよびdeep sequencingによる変異アレル頻度の測定をおこない、遺伝子プロファイルの差を明らかにする。また、DNAのメチル化状態 (Illumina Human Methylation450 BeadChip(450k) arrayで評価) や、DNAコピー数評価も行なう。また、RNAを用いてmiRNAやmRNAの発現について定量解析も行なう。 画像/生物学的特徴を規定する因子のクラスタリング解析:各症例の遺伝子発現(やmiRNA発現)プロファイルと画像特徴プロファイルを統合的にクラスター分析し、これら二つのモダリティの関係性を明らかにする。解析にはR言語で提供される、Significance Analysis of Microar- rays (SAM) を利用し、データの属性により、two-class-unpaired もしくは continuous-response types解析を行う。この解析により腫瘍生物学的情報と神経放射線画像情報の両方を用いたクラスター分析が可能となり、その双方が強く影響し合う因子の抽出が可能となる。
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次年度使用額が生じた理由 |
Radiogenomics解析ソフトウェアを開発するにあたり、当初予定していた一部コンピュータソフトアルゴリズムの購入を行わずにソフトウェア開発を進めたために繰越金が発生した。しかしながら、研究概要の項目で述べているように、解析時間が当初の予定よりも長くかかっており、この点を次年度に改善する必要がある。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度に発生した繰越金はRadiogenomics解析ソフトウェアの解析スピードアップに使用する予定である。現在開発が終了しているソフトウェア第1版は予定している画像パラメータを正確に計算するものであるが、計算速度に限界が生じており、多数症例を解析するにはややおそすぎる。特に画像のレジストレーションが計算速度のボトルネックになっていることが分かっているため、この点を改善すべくGPUプログラミングを新たに導入し、計算速度の高速化を試みる。このプロジェクトを推し進めるために繰越金を使用する予定である。
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